社説:月面着陸失敗 原因究明して出直しを

 日本では初めて、民間の取り組みとしては世界初の月面着陸となるはずだった。

 宇宙ベンチャーのispace(アイスペース、東京)の無人月着陸船が、月面に向けて降下したが、通信が途絶えて着陸を確認できない事態となった。

 機体の強度を上回る勢いで、月に衝突したとみられる。果敢な挑戦は、失敗に終わった。

 関係者はもちろん、成功を願っていた多くの人々が、残念に思っているだろう。

 同社は、月の資源開発や、地球と月の間の輸送を業務として掲げている。

 今回の月面着陸は、業務を本格化する前に行う探査計画の第1弾である。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロボットなどを積んで、月面の各種データを集める予定にしていた。

 意義ある試みといえよう。

 昨年12月に米国内からロケットに乗って出発し、約4カ月半の航行を経て、ようやく月の上空にたどり着いた。

 エンジンを噴射して、速度を調整しながら降下したが、搭載した機器の示した高度と実際の数値が異なり、まだ空中にいるのに燃料を使い果たして落下した、とされている。

 月には、地球の約6分の1とはいえ重力がある。一方、大気はほとんどなく、パラシュートを使えない。

 着陸には、機体の姿勢を保ちつつ減速するという難しい操作が求められ、成功したのは旧ソ連と米国、中国だけである。2019年に、インドとイスラエルの民間団体は失敗した。

 高い技術が必要となることを、関係者は改めて認識しなければならないだろう。

 失敗後の記者会見で、袴田武史社長は「着陸の直前までデータを獲得できた民間企業はわれわれのみ」と成果にも触れ、独自に開発する探査車を来年、月に送る方針に変更はないと表明した。

 意気込みは分かるが、まずは失敗の原因を徹底的に究明して公表し、計画を十分練り直したうえで、今回の任務を完遂するのが本筋ではないか。

 そう考える人も少なくなかったようで、失敗後の東京株式市場では、同社株が大量に売られる事態となってしまった。

 月の資源を求めて今後、各国の民間企業が探査を計画しているという。同社は態勢を立て直し、捲土(けんど)重来を期してもらいたい。

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