「教育に生命なげうちたい」丹波の偉人、伝記漫画が完成 学校の授業で活用

丹波の教育に尽くした井上堰水の事績を伝える漫画

 京都府南丹市八木町出身で明治時代に丹波地域で公教育の基礎を築いた井上堰水(えんすい、1842~1910年)の伝記漫画を、八木町出身の漫画家松本勇気さん(33)=京都府大山崎町=が描き、南丹市教育委員会が発行した。好奇心にあふれて読書にふけった幼少期や旧新庄小、園部中、園部高の各前身校で初代校長となり、郷土に献身した姿を優しい画風で表現している。

 南丹市教委は2022年度、小中学生が地域の偉人について学べる漫画を企画し、市全域に関係する人物として堰水を選んだ。気鋭の漫画家で、堰水と同じ新庄地区出身の松本さんに執筆を依頼した。

 旧新庄小出身の松本さんは「体育館に肖像画が飾られていた」という堰水に親しんでおり快諾。古写真や伝記を参考にし、八木町を歩いて山並みなどの風景も観察した上で執筆した。歴史研究者や住民でつくる委員会とも協議し、B6判124ページの「井上堰水ものがたり こころのゆくへ」を3月上旬に完成させた。

 一生を追う作品だが「人生の核ができた時期」と感じた少年期にとりわけ力を入れたという。歩きながら本を読むほど勉学に励み、周囲にからかわれながらも自分を曲げない姿を描いている。松本さんは「知識への貪欲さが印象的」と語る。

 幕末に自宅で塾を開き、若者に読み書きから教えた。友人からは都会での活躍を勧められるが、堰水は「丹波の子どもを教育することに生命をなげうちたい」と断る。固い意志がにじむ表情で田園風景に目をやる立ち姿は表紙絵にも使った。

 旧新庄小や園部中の前身校で校長を務める場面では、子どもに親身に寄り添うだけでなく、キリスト教など新しい知識を求めた側面も取り上げた。「使命感以上に興味で動き続けたのでは」と松本さんは推測する。

 堰水は68歳で亡くなる。病床で人生を回想しながら、千人以上とされる「教え子一人一人のこころの中に私は生きている」と書き残すシーンで結んだ。松本さんは「歴史を知ることで、昔の人たちがつないできたからこそ今の自分があると感じてほしい」と話した。

 6千部作った。市教委は「小中学校で授業に活用したい」とし、市立図書館でも所蔵する予定。

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