袴田さん再審開始と釈放…「迷ってはいけないの思い」 9年前の「村山決定」再評価の裏側

2023年3月、再審=裁判のやり直しが決まったいわゆる「袴田事件」に関連して、「村山決定」が注目されているのをご存じでしょうか?2014年に袴田巖さんを釈放した際の裁判長の名前からそう呼ばれる「村山決定」が9年越しに再評価されている理由を追いました。

「今、袴田さんが釈放されました。袴田元被告が釈放されました」

<静岡地裁の決定文>

「拘置をこれ以上継続するのは耐えがたいほど正義に反する」

2014年、袴田巖さんの再審と釈放を決めた静岡地裁の決定文に記載されたくだりです。当時の裁判長の名前から通称「村山決定」。この「村山決定」が袴田巖さんの支援団体の強い要望を受けて、4月10日、裁判所のホームページに掲載されました。支援団体は「日本の刑事裁判史上極めて重要な判例となった村山決定は広く一般に知られるべき」とその価値を訴えていました。

「村山決定」が9年越しに再評価されている理由。それは袴田さんを釈放したことだけでなく、裁判官にとっても触れづらいとされてきた「再審」に取り組んだ裁判所の姿勢にありました。

3月18日、その「村山決定」の裁判長、村山浩昭さんが初めて、公の場で決定の裏側を語りました。

<元静岡地裁裁判長 村山浩昭弁護士>

「やっぱり証拠開示の有用性を否定できないので、現場の裁判官も迷ってはいけないのではないかと思って。私自身もそのようにして袴田事件に取り組んでいました」

2012年に静岡地裁に赴任した村山元裁判長は「袴田事件」の再審に着手。検察に対して“証拠開示”を勧告しました。これにより開示された証拠の数は約600点にのぼります。再審についての審理では証拠の開示に法的な義務はなく、弁護側が請求しても有罪を維持したい検察は応じず、年月ばかりが経過するのが常でした。この時は村山裁判長らが検察に勧告したことで多くの証拠が開示され、袴田さんの再審開始につながりました。

しかし、検察がこれに不服を申し立てる「抗告」を行い、4年後、東京高裁は審理の末、「村山決定」を取り消しました。その後も審理が続き、2023年3月、東京高裁が自らの判断を覆し、再び再審を決めます。この直後注目されたのが、検察がまたしても抗告をするのかどうか。村山さんが「袴田事件」について初めて公の場で話したのはこのタイミング。検察に抗告をしないようけん制しました。

<元静岡地裁裁判長 村山浩昭弁護士>

「(検察の抗告は)あえて言えば、百害あって一利なし的な制度になりつつある。(裁判所が再審開始を決めたら)裁判をやるという道に開いていかないと、いつまで経っても請求している状態で、長く苦しむ方を救えない」

この2日後(3月20日)、検察は抗告を断念。事件発生から57年が経って、袴田さんの裁判のやり直しが確定しました。再審の本来の目的は、えん罪被害者の救済。9年の時を経て「村山決定」は「えん罪の疑いがあるのなら再審開始をためらってはいけない」とこの国の司法に呼びかけます。

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