驚異のワイルドカードライダーペドロサ、2年ぶり実戦で自己ベスト更新/第4戦スペインGP

 4月28日、MotoGP第4戦スペインGP初日最初のセッションでトップタイムを叩き出したのはダニ・ペドロサ(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)だった。ペドロサは2018年シーズンを限りに現役を引退し、2019年以降はKTMのテストライダーを務めている。今年のスペインGPは、2021年以来2年ぶりのワイルドカード参戦となった。

 スペインGP初日の午前中は朝に広がっていた雲が次第に晴れつつあったが、それでも吹く風は感じる涼しさを含んでいた。空を覆ううっすらとした雲が日差しを和らげるのか、陽光は強烈ではなく、真夏のような暑さだった木曜日とはうって変わって、午前中は過ごしやすい気候となっていた。

 ペドロサはプラクティス1でテールカウルに新しい形状の空力デバイスを装備したRC16を走らせ、最後のアタックで1分36秒770を叩き出した。現役を引退して4年以上経過したライダー──ダニ・ペドロサがMotoGPにおけるトップライダーだったとしても、現役ライダーをしのぐタイムをマークするとは、本当にセンセーショナルである。

ペドロサはテールカウルの空力デバイス形状が、ミラーやビンダーとは異なるバイクを走らせていた
プラクティス1でトップタイムを記録したペドロサ

 このタイムはペドロサにとって「ヘレスでの自己ベスト」だというから、さらに驚きだ。ちなみにペドロサ現役最後のスペインGPでは、サーキット・ベスト・ラップ(現在のオールタイムラップ・レコードにあたる)はカル・クラッチローの1分37秒653だった。

 プラクティス2では気温がぐんぐん上昇し、照りつける日差しで路面温度も上がって、気温は33度、路面温度は49度にまでなった。8人のライダーがプラクティス1のタイムを更新できない難しいコンディションだった。プラクティス2を9番手で終えた結果、ペドロサは初日総合3番手となり、Q2へのダイレクト進出を決めた。もちろん、3番手でも十分に驚くべき順位だ。

 初日を終えた夕方、暑さがまだ去る気配を見せないなか、ペドロサは囲み取材の場に姿を現した。まず初日の状況を説明する。その表情は明るく、時折笑みが混じった。

「すごくうれしいし、とてもいい日だった。僕にとってもチームにとっても、そしてファンにとっても、素晴らしい。特に午前中(プラクティス1)はサプライズだった。いいフィーリングがあったんだ。このサーキットで初めて1分36秒台を記録したんだ。年齢を重ねてもラップタイムを更新したんだから、すごくうれしいよ(笑)」

「午後は風と気温の上昇によってコースコンディションが厳しくなった。それでタイムを更新できなかったんだ。でも、(そういう状況下でも)すごく速いライダーはいた。ただ、全体としてとても満足しているよ。容易ではないQ2へのダイレクト進出を決めたからね」

囲み取材では柔和な表情で質問に答えていた

 今日は何を学んだのか、と尋ねられると、ペドロサは「そう、学んだよ。基本的に僕はひとりで走っているからね」と答えた。テストライダーは、ひとりでテストのために走る。他のライダーとともに走る感覚的なものは、現役選手に比べると厳しいはずだ。ペドロサが普段置かれているそうした状況を踏まえても、プラクティス1のトップ、初日総合3番手というのはふつうではないことだと思わされる。ただ、ペドロサが「ひとりで走っている」に言及したのは、あくまでもテストライダーとしての立場からだ。

「今日は何度かライダーの後ろについて走る機会があった。どう違うのかをすでに確認することができた。以前とは違い、今は誰かの後ろを走るか走らないかで違いが大きい。もちろん、まだ学んでいることを分析中だ。でも、ここまではいい日になっているよ」

「例えば、誰かの後ろで走っているときとそうじゃないときの差を知ることができる。テストでは、今はこれでよくなった、と思っても、誰かの後ろで走る状況ではわからない。というわけで、今後のための経験になっていくんだ」

 そう答えるペドロサに、マレーシアで行われた2月の公式テストで見た姿を思い出した。セパン・インターナショナル・サーキットの3コーナーのコースサイドで、じっとしていても汗が噴き出る蒸し暑さのなか、KTMのスタッフと一緒に長いことライダーたちの走りを見つめていた。そのように開発に尽力したバイクで、ペドロサは好順位でもってスペインGPの初日を終えたのだった。

 迎えるレースに向けて、ペドロサはこう話す。

「何を期待していいのかわからない。まずは予選があって、それからレースだ。オーバーテイクもしなくちゃいけない。ずいぶん長いことレースしていないから、うまくオーバーテイクをこなせるかわからない。どんな結果でも受け入れるよ」

 初日の結果は期待を生むが、ペドロサ自身はテストライダーとしての己の役割から視線を逸らすことなく、現状を冷静に考えている。そんな答えだった。しかし、いや、だからこそ、ペドロサはレースでどの姿を見せるのだろうか。

© 株式会社三栄