政治家は24時間、選挙を考えてなきゃダメですか? 統一地方選で見えた、新たなスタイルを支持する民意

告示翌日に出産し、選挙期間中に街頭に1日しか立たず東京都北区議選で初当選を決めた佐藤古都さん=4月23日深夜、東京都北区

 統一地方選の前半戦が始まって間もない3月末、ある発言の記事が目に留まった。「24時間選挙のことを考え、実行できる女性は少ない」。発言したのは日本維新の会の馬場伸幸代表。統一地方選を機に、女性議員が少ない日本の政治の現状を変えようという動きが盛り上がりつつある中で、「何を言っているのだろう」と気になった。
 馬場氏は、発言があった記者会見の全体を見れば本意が分かると、自身のツイッターに動画を載せて主張。「24時間考えていなければ勝てない選挙の現実」について問題点を指摘したということのようだ。
 馬場氏の言葉に、改革への熱意を感じ取った人がどれほどいたかは分からないが、足元では、24時間戦うことはできないと宣言して統一地方選に臨み、トップ当選を果たした公認候補者がいた。妊婦として4月23日投開票の東京都北区議選に立候補した佐藤古都さん(35)だ。出産予定日を投開票の翌日に控えていたところ、予定より早く告示翌日の17日に陣痛が始まり、出産した。
 告示日の1日だけ街頭に立ち、妊婦や子育て世代の思いを政治に反映させたいと訴えた。新しい選挙スタイルを支持する民意が示された形。政治の世界を変えていくことにつながるか。(共同通信=池田知世)

 

日本維新の会の馬場伸幸代表=4月23日夜

 ▽寝ている時とお風呂に入っている時以外は
 維新の馬場氏の発言があったのは3月28日、国会内で行われた記者会見だ。統一地方選の女性候補擁立について数値目標などを聞かれた際に、飛び出した。
 記者「地方議員600人を目指して擁立作業を進めていると思う。そのうち女性候補について目標や現状は」
 馬場氏「選挙というのは非常に厳しい戦いだ。優先枠を設けて、女性だからこの枠で出ていただきたいというようなことは、国政においても、地方議会においても、わが党としては全く考えていない。これから予想される衆院選でも、選挙区でたった1人当選するという厳しい選挙の中では、私自身もそうだが、1年365日、24時間、寝ている時とお風呂に入っている時以外は、常に選挙のことを考え、政治活動しているということだ。そのことを受け入れて実行できる女性というのは、やはりかなり絶対数は少ないと思う」
 馬場氏は続けて述べた。「女性が政界に進出するのはウエルカムだが、今の選挙制度が続く限りは、なかなか女性が一定数、国会、また地方議会に定着することは難しい。国政の選挙制度、定数削減とともに考えていくという方向で協議している」

国会議事堂

 ▽昭和の選挙スタイル
 現行の選挙は、国政、地方を問わず、選挙の公正さや、候補者間の平等を確保するとして、公職選挙法のルールの下で行われている。投票を呼びかける選挙運動が認められるのは、公示や告示の日から投開票前日までの限られた期間のみ。
 衆院選は12日間、政令市議選は9日間、特別区議選や市議選は7日間などが基本となる。長くはない選挙期間を最大限活用するため、立候補者はマイクを使える午前8時から夜8時まで、街頭活動や集会を行うのが一般的な選挙の姿。外での活動を終えた後も、深夜まで「選対」と呼ばれるチームとの打ち合わせがある。
 定数1、つまり1議席を奪い合う衆院小選挙区をはじめ、定数の少ない選挙区は、より厳しい戦いが予想される。選挙期間でなくても、現職なら議会に出席する「本業」以外に、地元の有権者、団体と面会し、政治課題について話を聞いたり、意見交換したりする「政治活動」を日常的に展開するのが王道だ。衆院の解散権を首相が握り、いつ戦いの火ぶたが切られるか分からない衆院では「常在戦場」という心構えが浸透している。
 かつて田中角栄元首相は「歩いた家の数以上の票は出ない。握った手の数しか票は出ない」と選挙の要諦を説いたという。最近は選挙の有力なツールにインターネットが加わったとはいえ、“角栄流”昭和の選挙スタイルは、今もあまり変わっていない。新年会や夏祭りといった地域の行事に顔を出し、有権者と触れ合うことが重要だと言われる。土日祝日を含め、昼夜を問わず政治活動は続く。子育てや介護、家事に時間を取られることがない人の方が、ハードな活動を積極的にこなせるのは確かだ。

有権者と握手を交わす統一地方選の候補者(左)=3月23日、大分県

 ▽「家族を犠牲」の見せ合い競争
 こうした選挙の現状に対し、見直しを求める声も上がり始めた。昨年12月の衆院政治倫理・公選法改正特別委員会で選挙運動をテーマに与野党が自由討議を行った際、立憲民主党の寺田学氏はこう訴えた。
 「われわれも何回もこの活動をしながら上がってきているので、そういうものだと思ってしまっているかもしれないが、このご時世に、選挙カーに乗って手を振って、遊説し、握手して回る活動自体が、果たして有権者に有意義な選択肢を提供しているのか」
 議会の議席数が一定の規模になっているのは、多様性が求められているからだとして、特に新人に有利な選挙制度にするよう主張。既存の発想から脱却して(1)選挙カーの廃止(2)立候補届け出前の事前運動禁止の見直し―を提案した。
 寺田氏自身、参院議員の妻と一緒に小学生の男の子を育てている。「今のわれわれの政治活動自体、いかに有権者に根性を見せるかとか、家族を犠牲にして身をささげていることを見せ合うかというような、過当な競争になっている。改めなければならないと思う」
 ただ、こうした提案は、従来の戦い方で勝利してきた現職議員を巻き込んだ議論にはなりにくいのが現実だ。

子育てをしながら選挙に初挑戦した国友彩葉さん=3月、岡山市

 ▽選挙に24時間割かない
 それでも、3月下旬からスタートした統一地方選では、子育てなどを考慮して選挙活動に24時間を費やさない戦い方を選択した新人女性候補が複数いた。その中には、最多得票でトップ当選を果たした人がいる。
 

岡山市議選でトップ当選を決め、万歳する国友さん=4月9日

 一人は4月9日投開票の岡山市議選の中区選挙区(定数9)に立憲民主党公認で挑戦した国友彩葉さん(31)。3歳の長男と1歳の長女を育てながら選挙に臨み、自身の取り組みによって育児と両立できるモデルケースを示すことを意識した。選挙カーを使う街宣の時間は、子どもたちを保育園に預けている夕方までと決めた。会社員の夫は忙しく、保育園の送迎も自分でこなしたという。初めての選挙だったが、6700票以上を獲得して1位で当選した。
 もう一人は、冒頭紹介した佐藤古都さんだ。馬場氏が党首を務める維新の候補。これまで東京都議補欠選挙、都議選への立候補経験があり、今回の東京・北区議選(定数40)は3度目の挑戦だった。小学校にこの春入学した長女も抱えている。「子どものイベントも諦めない!そういう選挙にしたい」と、告示日も第一声の前に長女の行事に参加した。この日の街頭演説には馬場氏も応援に駆け付けている。次の日、佐藤さんに陣痛が始まる。そして次女を出産した。

出産前日に街頭演説した佐藤さん(本人提供)

 ▽妊娠、出産を政治参加のハードルにしない
 結局、佐藤さんが選挙期間中に街頭に立ったのは告示日のみとなった。佐藤さんは大きなおなかを抱えながら、街頭でマイクを握った。「2回の落選を経て、やはり北区をもっともっと前に進めていきたい。その気持ちを諦められず、3回目の挑戦になる。第2子を妊娠中だ。選挙のことだけ、政治のことだけを24時間考えるのは難しい。でも、妊娠中だからこそ分かる。妊婦さんの気持ちが、子育て世代の皆さんの気持ちが分かる。地域に暮らしているからこそ、という政治改革ができると思っている」
 馬場氏は演説で「もう間もなく子どもが生まれる。そういう人が政治にチャレンジする。議会に送っていただくことが、新しい政治のスタートだ」と支持を呼びかけた。

 選挙戦最終日には、維新共同代表の吉村洋文大阪府知事がJR赤羽駅前に立った。出産を終えたばかりで来られなかった佐藤さんへの支持を、こう訴えた。「政治の世界は古い。永田町の常識で言ったら、選挙期間中に出産する人は立候補なんてできない。その常識を変えていこう」「女性の政治進出、社会進出と言うなら、ここがスタートだ。妊娠、出産も政治参加のハードルにならない、と社会に証明していこう」。佐藤さんの当選を足掛かりに「生産性の低い古い政治」を変えていくと意気込んだ。

佐藤さんらの応援のため演説する吉村洋文大阪府知事。不在の佐藤さんのビラが示された=4月22日、東京都北区

 結果、佐藤さんは9600票以上を得てトップ当選。2位に2500票近くの差をつけ、断トツだった。
 以前に出た選挙で「演説なんかしてないで子育てしろ」とやじを浴びたという佐藤さんは、今回の当選に、時代の変化を感じたという。投開票の翌日、インターネット番組に自宅から出演し、こう語った。「出産や妊娠がハードルにならない選挙の在り方を一定、応援していただけたのは率直にうれしい。挑戦したいと思ったら誰でも挑戦できるような環境が整えば」
 東京都の21区議選だけでなく、41道府県議選、17政令市議選でも女性当選者が過去最多を記録した今回の統一地方選。ただひたすらに選挙や政局を考えるのではない政治家のスタイルは、女性に限らない話だが、女性が地方議会に増えていくことで、多様な姿が当たり前になっていくのではないだろうか。国政レベルに変化を呼び込む活躍が期待される。

© 一般社団法人共同通信社