よみがえる旧大佛次郎茶亭 「保存会」が購入、修繕 没後半世紀を前に完了

改修が終わったかやぶき屋根が特徴の旧大佛次郎茶亭=鎌倉市雪ノ下

 横浜ゆかりの作家大佛(おさらぎ)次郎(1897~1973年)が鎌倉文士らとの交流で使っていた「旧大佛次郎茶亭」(鎌倉市雪ノ下)の大規模修繕が没後50年となる30日を前に完了した。数年前に売りに出され、新たな所有者の下、昨年2月末から大規模改修が進められていた。建物の維持・管理に当たる「一般社団法人大佛次郎文学保存会」は「工事自体は終了したが、今後の維持・管理こそが重要」と未来を見据えている。

 建物は大佛の没後、養女の故・野尻政子さんらが管理してきた。ただ、親族が高齢になったことや、維持管理費が負担になってきたため「建物を保存してくれる方に売却するほか道はない」とし、2019年春から売却が進められた。引き合いは多かったものの使用用途が限られていたり、売却条件が折り合わなかったりするなど買い手が決まるまで時間を要したという。

 その後、21年2月に鎌倉に地縁のある大佛文学愛好者の女性が手を挙げ、大佛文学の拠点保存のため同保存会を立ち上げ、保存会として旧茶亭を買い受けた。

 建物は1919(大正8)年ごろの建築とされ、鎌倉に壊滅的な被害をもたらした100年前の関東大震災にも耐えた。ただ、建物は水平が保たれておらず、建具の開閉に苦労する状態で、屋根のかやは痩せてみすぼらしくなっていた。

 保存会から管理を委託された不動産会社・原窓の岡崎麗さんは「別人のように生まれ変わらせるのではなく、これまでを継承し極力変えないように心がけたかった」と振り返る。大規模修繕は、沈んだ建物を立て起こす作業からスタート。ジャッキアップで部分的に建物を浮かせ根接ぎをし、土台と柱を入れ替える作業に2カ月を要した。その後、夏場に神戸から職人を招き、2カ月弱の期間をかけ、かやをふき直したという。

 また、建物の床板などの建材の一部に数年前に解体された大佛次郎邸の木材を使用するなど、古き良き時代の継承へ最大限努めた。

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