米国社会の分断を深めてはいけない。
バイデン米大統領が、2024年11月の次期大統領選に民主党から再選出馬すると正式表明した。共和党では、前大統領のトランプ氏がすでに立候補を表明している。2年後を目指す選挙戦が本格化した。
「米国の魂を懸けて闘う」。動画声明でバイデン氏はそう述べ、自由と民主主義を守る選挙だとアピールした。動画は21年の連邦議会襲撃事件の映像などが使われ、トランプ氏を強く意識している。一方で、事前収録されており、増えている言い間違いを避ける狙いもうかがえた。
80歳のバイデン氏は史上最高齢の現職大統領として職務執行能力を不安視する声が広がっている。2期務めた場合、任期終了時には86歳となる。
トランプ氏も76歳である。かつて40代の大統領が次々と登場した米国社会の停滞ぶりを映すかのようだ。
国民の受け止めも厳しい。世論調査によると、有権者の大半が両氏とも出馬すべきでないと回答し、世代交代が進まないことへの失望がにじむ。
米国では歴史的な高インフレにより市民生活が圧迫され、バイデン氏の支持率は40%程度に低迷している。それでも早々と再選出馬を打ち出した背景には民主党の人材不足が大きい。
就任時には「1期限り」とも言われたが、後継者は見当たらず、昨年11月の中間選挙で民主党が善戦したことで党内の求心力が高まった面もある。トランプ氏に「勝てる候補」と見られているのだろう。
政権の滑り出しは手堅く、好調な経済にも支えられてインフラ整備などを進めた。トランプ氏が混乱させた国際協調も一定修復した。だが21年8月、アフガニスタンからの米軍撤退に伴う混乱で潮目が変わった。
米国は急ピッチの金融引き締めにより、23年後半にも景気後退局面入りするとの見方がある。公的債務も膨張しており、経済面の懸案は山積みだ。
何より、分断された社会を修復すると訴えて就任したはずなのに、その最大の目的が果たせていない。
一方のトランプ氏は不倫相手に払った口止め料に関して起訴されたが、民主党の「魔女狩り」だと反発し、支持者の結束はかえって高まったかにみえる。共和党内での支持率は2位以下に大きな差をつけている。
このまま党内の対抗馬を抑えて、前回と同じ対決となる可能性がある。根拠のないデマや中傷を強め、内向きの政争に陥ることを憂慮する。
国内問題だけでなく、終わりの見えないウクライナ戦争をはじめ世界情勢にどう対応するかが問われる。超大国のリーダーを決める選挙は、大きな視野で開かれた、建設的な議論の場としなくてはならない。