社説:動物福祉 京でも新たな形つくれれば

 動物園、水族館で、飼育動物にかかる負担やストレスを減らそうという取り組みが広がっている。飼育展示の場を改善するだけでなく、動物をなでたり抱いたりできるコーナーや動物ショーをやめる動きもある。

 この連休中に、そうした変化を感じる人も少なくないだろう。

 子どもたちにとっては楽しみが減るかもしれないが、人と動物の関係をよりよくする一歩と捉えたい。

 変化の背景には、世界的な「動物福祉(アニマルウェルフェア)」の潮流がある。動物にとっての苦痛や不快さを取り除き、自然な行動ができる飼育環境づくりを目指す。

 1960年代の英国で、狭く劣悪な環境で家畜を扱う畜産業の在り方への反省から提唱された。欧州では動物園や水族館にも取り入れられている。

 国内では昨年、飼育動物に人を模した姿や行動をさせることを禁じるなど、動物福祉の視点を盛り込んだ動物園条例が札幌市で成立した。同条例は園の活動目的を、単なる娯楽でなく「生物多様性の保全」と定義した点でも際立つ。

 日本の動物園は、戦後の復興とともに増加し、庶民の身近なレジャー施設として親しまれてきた。その源流は江戸時代の見せ物小屋とされ、高度成長期にかけてサルの自転車乗りなどの出し物が人気を博した。

 当時ほどではないとはいえ、今もレジャー需要に依拠した施設運営は続く。子どもに「命の大切さ」を教えるのに、動物とのふれあいコーナーは役立っているとの意見もある。

 ただ、新型コロナウイルス禍を受けて状況は変わってきたようだ。感染対策のため施設がふれあいやショーを休止したところ、動物の体調が好転した例があり、SNSなどを通じて一般にも知られるようになった。

 京都市動物園でも、ふれあいプログラムを取りやめたテンジクネズミの不調や診療件数が減った。そこで同園は昨秋から、観察のみのプログラムに変えた。参加者は箱やわらでネズミの「部屋」を作り、ネズミがどう使うかを観察する。人との違いや生物多様性を感じてもらう狙いという。

 動物と人との適切な「距離」はどうあるべきか。各施設には、その測り直しが求められているといえる。科学に基づく的確な飼育管理を進め、根拠を示して来園者の理解を得たい。

 飼育下のストレスの影響などを把握することは、生態の解明や、希少種の繁殖のヒントにつながる可能性もある。

 もとより生き物相手の調査研究は一朝一夕にいかない。

 その意味で、東京・上野動物園に次ぐ歴史をもつ京都市動物園の役割は大きい。明治の開設から今年で120年。その蓄積を活用し、新しい動物園像を広く発信してほしい。

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