巨人が創設した女子硬式野球チーム、今季から本格始動 シーズン出だしから強烈な存在感

投球を終えてチームメートに迎えられる日高結衣投手(読売巨人軍提供)

 硬式ボールを使用した女子の野球は近年、高校を中心にチーム数が増加している。静かに広がる女性の野球熱を反映するかのように、プロ野球の巨人が女子チームを結成し、今年から本格的に活動を開始した。アマチュア選手として日頃、学業や仕事などをしながら、練習や試合に出場する彼女たち。今シーズンの出だしから強烈な存在感を放っている。(共同通信=山﨑惠司)

 ▽抜きんでた強さ

 ジャイアンツ女子チームとしての記念すべき初の対外試合は3月1日、クラブチームのゴールドジムとの対戦だった。12安打12得点で12ー1と圧勝した。この後も勝利を重ね続け、2大会で優勝するなど10戦全勝で、主戦場となるヴィーナスリーグでも初戦の秀明大戦に8-2で勝利し、白星でスタート。その強さは今季参入したばかりのチームとは思えないほど、頭一つ抜きんでた印象がある。
 女子の硬式野球は高校、大学、クラブという三つのカテゴリーでそれぞれ日本一を目指す選手権が開催され、各カテゴリーの上位チームが争う全日本選手権が設定されている。巨人の女子チームはクラブのカテゴリーに属する。
 「すべての大会を制するというのもあるが、全日本クラブ選手権と全日本選手権は、最終的に勝ち取りたいところ。男子の巨人も日本一を掲げているが、我々も同じところに目標を置いている」。宮本和知監督は、日本一を目指していることを強調した。

巨人のファン感謝イベントであいさつする女子チーム監督の宮本和知氏(前列中央)=22年11月23日、東京ドーム

 ▽消滅した女子プロ野球の受け皿を

 巨人で1980年代から90年代にかけて、左腕投手として活躍し、投手コーチも務めた宮本さんが女子の硬式野球にかける思いは強く、女子チーム創設にも尽力した。巨人の親会社である読売新聞に女子硬式野球への参入を働きかけた背景には危機感があった。
 「女子野球のプロが動き始めた2010年ごろから、見続けてきた。その女子プロ野球の組織が2011年に消滅する。それまで女子選手にとっては夢のステージだったものがなくなってしまう。女子選手を路頭に迷わせるようなことはしてはいけない。何とかしなくちゃいけないと思い、2021年から本格的に動いた」

練習で汗を流す巨人女子チームの選手ら=1月12日、東京都府中市内

 2010年からリーグ戦を開始した日本女子プロ野球機構だが、2021年に活動を停止した。その反面、硬式野球をプレーする女子の競技人口は増え続けていた。巨人の公式サイトに「読売ジャイアンツ女子チームの創設について」という2021年12月8日付の告知文が掲載されている。それによると「国内の女子野球はこの数年で競技人口が6000人以上増え、現在、全国で約100の高校、大学、クラブチームの硬式野球チームが活動しています」とある。
 こうした現状から「長らく、日本のプロ野球をリードしてきた当球団として、より高いレベルを目指す女子野球選手がトップアスリートとして活躍できるよう女子硬式野球チームを創設することにしました」と書いている。
 宮本さんは2019年から2021年まで巨人の一軍で原監督の下、コーチとして投手陣を担当してきたが、折々で女子野球界の状況を原監督に伝えていたという。原監督とともに、巨人の山口オーナーに女子野球の現状を説明し「読売としてしっかりした組織を作らないといけない、と理解を得た」(宮本さん)。

女子チームについて語る宮本和知監督

 ▽プロ化を意識

 NPBでは西武ライオンズ・レディース、阪神タイガース・ウーマンについで3球団目の女子チームだが、親会社の取り組みでは巨人が先頭に立っているかもしれない。宮本監督は言う。「僕は女子のプロ野球と言いたいけど、組織していないので、まだ言えない。ただ『プロ化を目指す』とは彼女たちにはっきり言ってます。『君たちもそのつもりでいてくれ』と。トップアスリートとしてやるべきことを、もっと上を目指すという志を持っているチームということに対して、彼女たちをリスペクトしている」
 宮本さんは2021年を最後に一軍コーチを退任すると球団社長付女子野球アドバイザーとして、女子チーム創設に動いた。先に紹介した2021年12月8日付の告知では、選手1期生4人の契約内定も発表されている。また、2度の選考で選ばれた2期生16人の入団が昨年11月23日に発表され、所属選手は20人となった。
 また、東京・府中市が昨年5月に全日本女子野球連盟から「女子野球タウン」に認定されたのに関連し、府中市と巨人が昨年6月、スポーツ振興に関する協働協定を結んだ。今年3月下旬にはキャンプを実施するなど、府中市民球場を練習の拠点として確保した。
 このほか、女子チームが加盟するヴィーナスリーグ(関東女子硬式野球連盟主催)を読売新聞のグループである報知新聞が後援。SNSでヴィーナスリーグや女子硬式野球の情報発信を行う。盛り上げる態勢も整えて、今年からヴィーナスリーグに参戦した。

打撃練習する巨人女子チームの選手ら=1月12日、東京都府中市内

 ▽将来のエース

 20人の選手の中で注目したいのが、2期生の左腕、日高結衣投手だ。女子硬式高校野球の強豪である神戸弘陵を卒業したばかり。東京都内の大学に進学し、巨人の女子チームで野球を続ける生活を選んだ。
 全日本選手権は高校、大学、クラブチームが分け隔てなく戦うが、神戸弘陵は準決勝で阪神タイガース・ウーマンを下したものの、決勝でクラブチームのエイジェックに敗れ、惜しくも準優勝にとどまった。神戸弘陵は5試合戦ったが、相手はクラブが4チーム、大学が1と年上ばかり。日高投手はそのうち、3試合に登板(先発2、救援1)し、いずれもチームの勝利に貢献した。特に準決勝の阪神タイガース・ウーマン戦は8回から延長タイブレークとなったが、11回を3安打、2失点で投げ抜いた。

日高結衣投手の投球フォーム(読売巨人軍提供)

 宮本監督の評価は高い。「コントロールが良い。女子は緩急で打者を攻める投手が多く、内外角に投げ分けるタイプはあまりいない。日高は両サイドに投げ込める制球力を持っている。阪神タイガース・ウーマンも打てなかった。メンタルも強い。近い将来、彼女がエースになるだろうし、いずれは日の丸を背負う選手です」
 球種はカーブ、スライダーとチェンジアップ。ストレートは最高で116キロだという。「球はそこまで速くないので、コースに投げ分けるコントロールを重視している」
 将来の目標は「女子野球を代表するような投手になる」。ワールドベースボール・クラシック(WBC)も見ていたそうで「日本代表で活躍する姿はかっこいいなと思ったので、自分もそういう風になれるようにやっていきたい」。巨人女子チームの期待を背負う左腕の成長が楽しみだ。

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