「ご結婚は?」初対面の取引先の質問に驚がく、女性経営者が感じた好奇の目 「家業継ぐのは男」偏見に負けず悩み共有して手腕磨く

 とちぎ園芸の富久田三千代社長=2023年2月、宇都宮市

 日本経済を支える中小企業は、経営者の高齢化や地域経済の衰退によって大量廃業の危機にある。家業を継ぐのは男という意識が社会に根強く残る中、跡取りとなった女性社長たちが偏見に負けず活路を見いだそうと奮闘中だ。従来の事業に依存せず、持ち味を生かして新たな分野に積極的に挑戦。同じ境遇の女性社長たちが事業の課題や家庭との両立などの悩みを共有し、経営手腕を磨く活動も生まれている。

 東京商工リサーチの調べによると、後継者がいない企業の割合は2022年に59・90%と、前年から1・28ポイント上昇した。後継者がいる企業のうち「同族継承」が65・79%を占めたことを踏まえると、会社を継続させていく上で女性の存在がますます重要になっている。(共同通信=徳光まり)

 ▽社会の固定観念、持ち前の負けん気に火が付いた
 花や園芸資材を販売する「とちぎ園芸」(宇都宮市)の富久田三千代社長(50)は2019年、現在会長を務める父親から会社を受け継いだ。弟(47)が先に入社していたが、社交性や経理の数字に強いことなどを理由に選ばれた。

 社長に就任した当初、周囲から好奇の目を向けられていたと振り返る。特に驚いたのは、銀行や取引先との面談。初対面でも、「ご結婚はされているんですか。ご兄弟は?」とぶしつけに聞かれることが何度かあった。「家業は男が継ぐのが当たり前」という固定観念を持っていると感じたが、逆に持ち前の負けん気に火が付いた。

 3人の子どもを育てながら、全力で会社のかじ取りに当たった。子どもが体調を崩したときを除き、仕事は休まなかった。「親につらい姿を見せて、継がせて悪かったと思わせたくない」との思いが常にあった。経営課題に直面しても、中小企業診断士や異業種の経営者仲間に相談して解決してきた。

 自らのアイデアで始めたのが「庭の家事代行業」だ。お客さんと雑談しているとき、「高齢になって庭の手入れがしづらくなった」との悩みを聞き、これは事業化できると思いついた。お客の要望に合わせ、花壇の掃除や苗の植え込みを世話し、四季折々の庭造りのサービスを提供している。

 弟は現在、専務として業務を支えている。従業員はアルバイトを含め十数人で、女性が大半だ。富久田さんは「地元では庭の世話をするのは女性が多い。女性同士で話も弾む」と自身も進んで出向く。

 ▽アフターコロナ、デジタル化の波に立ち向かう
 東京都港区にあるオフィス関連の専門商社「オカモトヤ」は文具店として創業し、約110年の歴史がある。鈴木美樹子社長(47)は3姉妹の長女として2022年に父親から会社を継いだ。

 かねてオフィスのペーパーレス化が進む中、新型コロナウイルス禍に直面。在宅勤務が広がり、コピー機の利用料や文具などの消耗品需要の減少するなど事業環境の悪化が加速した。

 災害時に女性が必要とするオフィス向け備蓄品を説明するオカモトヤの鈴木美樹子社長=2023年2月、東京都港区

 鈴木社長は新事業を模索し、災害時の備蓄品をオフィス向けに販売し始めた。女性にとって不可欠な生理用品や下着、カイロなどをセットにした商品だ。オフィスから動けなくなるような事態に陥っても、しばらくの間はこれでしのぐことができる。「働く女性の活躍を後押ししたい」との思いを込めた。

 鈴木さんは社員の意見に耳を傾け、信頼して業務を任せることを経営の基本として心がけている。そうした日々の積み重ねが、アフターコロナやデジタル化の波を乗り切る鍵だと考えている。

 ▽オンラインで背伸びせず交流、プレゼンの練習も
 東京商工リサーチの2022年の調査では、全国の女性社長は約58万4千人で、企業全体の14・7%。調査を始めた2010年と比べると約2・7倍になった。しかし、男性社長が圧倒的に多い状況は変わらず、女性社長は身近に相談相手を見つけづらい。

 そうした問題意識から、2019年に設立されたのが「日本跡取り娘共育協会」だ。会員は現在、事業承継などで家業に携わる女性約90人。「跡取り娘.com」のサイトを開設し、約20人の中心メンバーを軸に毎月のオンライン定例会などで交流を深めている。

 交流の場での話題はさまざまだ。家族が自社株をどんな割合で持つべきか、どのような時間配分で育児と両立すべきか。とちぎ園芸の富久田さんも、経験を生かしてメンバーの相談に乗っている。日本跡取り娘共育協会の内山統子代表理事(42)は、会員から「背伸びをせず身の丈に合った居心地の良い交流ができる」との声が寄せられていると話す。

 跡取り女性社長らのオンライン定例会(日本跡取り娘共育協会提供)

 協会の活動では他に、自社の事業内容を他のメンバーに説明する機会を設けている。特に家族経営の場合、外部とのやりとりが乏しくなりがちだ。限られた時間で分かりやすくプレゼンテーションする練習をすることで、銀行との交渉などで役立ててもらう狙いがある。

 起業経験がある内山さんは「(社長を務める女性には)地域社会や家庭のしがらみで孤軍奮闘している人が多い。新たな考え方や仲間を得て経営者として自信を付けてもらえるのがうれしい」と、活動に手応えを感じている。

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