社説:入管法改正案 人権侵害を改める熟議こそ

 外国人の人権問題の改善という国内外の要請に応える内容になっていない。

 在留資格がない非正規滞在の外国人の収容・送還ルールを見直す入管難民法改正案が、衆院法務委員会で与野党4党の賛成で可決された。大型連休明けの衆院通過が見込まれている。

 改正案は、強制退去を命じられても本国送還を拒む人について、人権侵害が指摘されてきた入管施設での長期収容を解消するとうたう。だが、難民申請中の送還停止を原則2回に制限するなど、むしろ入管当局の権限を強化するものだ。

 迫害の恐れのある本国に送り返す懸念は拭えない。与野党の党利党略で拙速に進めれば、将来に禍根を残す。

 改正案は、収容者の死亡が相次いだため2021年に廃案となった旧案の骨格部分を維持。3回目の申請以降は「難民認定すべき相当の理由」を示さなければ送還するとした。

 一方、認定基準に満たなくても、難民に準じて在留を認める新制度や、一時的に社会で生活できるようにする「監理措置」の創設も盛り込んだ。収容中も3カ月ごとに必要性を見直すとし、「原則収容主義」への批判をかわす狙いといえる。

 だが、収容期間の上限は設けず、新たな措置も入管当局の判断次第だ。外国人支援団体や法学者らが、そもそも日本の難民認定率が欧米に比べ極めて低いという根本的な問題を挙げ、送還で生命の危険を招くと批判するのはもっともだろう。

 日本も批准する難民条約は、迫害を受ける恐れがある国への送還を禁じている。国連人権理事会の特別報告者は先月、改正案が国際基準を満たしていないとして「徹底的な見直し」を日本政府に求める公開書簡を送った。真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 衆院の与野党協議で、日本維新の会は認定担当者の研修など小幅な修正と引き換えに、国民民主党とともに賛成に回った。だが、入管の処遇内容には踏み込まず、形ばかりの「成果」を優先させた感が否めない。

 立憲民主党は第三者機関設置による難民審査を求め、与党は付則に「検討」と盛り込む案を示した。だが、抜本的な見直しの実現が不透明だと立民は反対し、白紙に戻された。

 与党側は立民との交渉で、日本で育ちながら在留資格のない外国人の子どもへの「在留特別許可」付与の検討も持ち出した。これを「人質」にして法案を通そうというのか、理解に苦しむ。

 収容中だったスリランカ人女性死亡の真相も解明されぬまま、外国人労働者の受け入れ拡大の議論も進んでいる。

 保護すべき人をいかに守り、救済するのか。参院の審議を通じて根本からの議論を尽くさねば、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)でも日本の人権意識が疑われよう。

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