TCR新時代の幕開け。世界戦はミケリスがポール・トゥ・ウイン。ヨーロッパはアウディ陣営が席巻

 WTCR世界ツーリングカー・カップの後継として、今季より創設の新生TCRワールドツアーが、欧州域内最高峰のリージョン選手権であるTCRヨーロッパ・シリーズ2023年開幕戦とのジョイントにて、ポルトガルのアルガルベで幕開けの日を迎えた。

 初日から各陣営とも戦略を異にする好勝負を繰り広げると、今季も2台体制で挑むBRCヒョンデN・スクアドラ・コルセが予選フロントロウを占拠。栄えある初代ポールシッターとなったノルベルト・ミケリス(ヒョンデ・エラントラN TCR)が、決勝レース1でも僚友を従えてのワン・ツー・フィニッシュを達成した。

 続いて周回数の大半をセーフティカー(SC)が率いたレース2では、こちらもWTCR時代から続く大所帯を登録する、リンク&コー・シアン・レーシングのサンティアゴ・ウルティアとテッド・ビョーク(リンク&コーCo 03 TCR)がワン・ツーで応酬する結果に。

 一方のTCRヨーロッパ組では、こちらもサルーンのアウディ陣営が席巻し、心機一転ブラック&レッドのカラースキームとなったコムトゥユー・レーシングのトム・コロネルと、今季より加入したジョン・フィリピがそれぞれ勝利を挙げ、ラリークロスから転向のコービー・パウエル(アウディRS3 LMS 2)も世界戦組と遜色ないスピードを披露するなど印象的な活躍を演じてみせた。

 2023年序盤4戦のうち3戦でTCRワールドツアーとの併催イベントとされたTCRヨーロッパだが、新たなジョイント開催の枠組みとして双方が同一セッションでの勝負を繰り広げることに。

 そんなTCR新時代の幕開けとなった4月28~30日のアルガルベ、ポルティマオ・サーキットには全9戦にエントリーする9名の世界戦登録ドライバーが集った。その一方で、肝心のTCRヨーロッパ参戦組は13台に留まり、昨年対比で大幅なエントリー減に。トラック上では混走条件もあり22台が一斉に走行したものの、シリーズの今後に一抹の不安を抱かせる。

 しかし練習走行が始まると、同一規定で同じBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)を採用する両シリーズが入り乱れる理想的な展開となり、FP1こそ世界戦登録のフレデリック・バービシュ(アウディRS3 LMS 2)が最速を刻んだものの、続くFP2ではEuroRX3から転向のパウエルが最速タイムを叩き出す“サプライズ”を演じてみせた。

FP1は世界戦登録のフレデリック・バービシュ(アウディRS3 LMS 2)が最速。新型モデル『FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR』を走らせるネストール・ジロラミ(ALM Motorsport)も最初の「不具合出し」を進めた
TCRヨーロッパ組ではアウディ陣営が席巻し、今季ラリークロスから転向のコービー・パウエル(アウディRS3 LMS 2)が鮮烈なスピードを披露した

 続いて実施された20分間のQ1と、同10分間のQ2でも各陣営で戦略判断が分かれ、ポールを争う最後のセッションではほとんどのドライバーができるだけ多くの周回数を稼ぐことを選択するなか、たった1台の参戦となった新型モデルFL5型ホンダ・シビック・タイプR TCRを走らせるネストール・ジロラミ(ALMモータースポーツ)と4台のシアン・レーシング勢のみ、他車の走行によりグリップが改善されたトラックを最大限に活用するべく、ニュータイヤのセットを温存してピットにステイする判断を下す。

 その結果はただちに判明し、連続周回を続けたミケリスとミケル・アズコナのヒョンデ艦隊が最前列を射止める展開となり、背後トップ10には以下の顔ぶれが並ぶグリッドとなった。

■2023 TCRワールドツアー/TCRヨーロッパ第1戦 予選結果

Pos. Driver Car Time

1 ノルベルト・ミケリス ヒョンデ・エラントラN TCR 1’51.297

2 ミケル・アズコナ ヒョンデ・エラントラN TCR +0.035

3 ロブ・ハフ アウディRS3 LMS 2 +0.045

4 フレデリック・バービシュ アウディRS3 LMS 2 +0.143

5 ネストール・ジロラミ ホンダ・シビック・タイプR TCR +0.196

6 マ・キンファ リンク&コー03 TCR +0.277

7 トム・コロネル(EU) アウディRS3 LMS 2 +0.307

8 テッド・ビョーク リンク&コー03 TCR +0.396

9 コービー・パウエル(EU) アウディRS3 LMS 2 +0.411

10 サンティアゴ・ウルティア リンク&コー03 TCR +0.429

「幸いなことに、今日は簡単に自信をつけられたし、大きなミスはなくチームにとっても、そしてもちろん自分自身にとっても幸せだ」と、新生TCRワールドツアーで最初のポールポジションを獲得した2019年WTCR王者のミケリス。

「トラックタイムを最大化する必要があることは分かっていたし、最初から100パーセントプッシュする必要があることもわかっていた。FPでは少し遅れていると感じていたから、可能な限り全開で行ったのがすべてだったね」

 そしてTCRヨーロッパ最上位の7番グリッドを確保したコロネルも、いつもの調子で「正直に言えば、僕はただクルマから最大限の性能を引き出そうとしただけ」だと振り返った。

「真面目に言って、いいラップができたと思っている。最初のセクターはパープル(全体最速)だったし、本当にドライビングに夢中で没頭できた。最後のセクターでコンマ3秒失っているが、それは理解できないね(笑)」

今季も2台体制で挑むBRC Hyundai N Squadra Corseは、予選でトラックタイムを稼ぐ戦略を採る
新生TCRワールドツアーで最初のポールポジションを獲得した2019年WTCR王者ノルベルト・ミケリス(ヒョンデ・エラントラN TCR/左)

■同士討ちのリンク&コー、レース2ではワン・ツー・フィニッシュ

 土曜現地14時20分開始のレース1は、12周のレースを通じてスターティングポジションの優位を維持したヒョンデ陣営がそのままチェッカー。複数回のタイヤロックアップで僚友に挑戦した“最後のWTCR王者”アズコナを退け、ミケリスが初代TCRワールドツアーウイナーに輝くことに。

 一方で、4台体制が仇となったか。リンク&コー・シアン・レーシングはオープニングラップでヤン・エルラシェール(リンク&コー03 TCR)とウルティアがターン2で接触。後者はダメージが大きくピットでレースを終えることとなってしまった。

 この余波で進路を塞がれる形になったのがコロネルで、僚友のフィリピとパウエルに先行される展開に。運が味方したとは言え、これがデビュー戦の新鋭パウエルは大先輩に先んじてヨーロッパ・シリーズ初戦を2位、総合10位で終える大健闘を見せた。

 明けた日曜現地11時30分開始のレース2は、予選トップ10リバースの好機を活かしたウルティアが、前日の鬱憤を晴らすかのような快走を披露。スタートで隣にいたパウエルを牽制して僚友ビョークの2番手進出をサポートすると、ここでルーキーはジロラミらとの多重クラッシュの誘因となり、最初のSCが発動する。

 パウエルのアウディが回収され6周目に再開したレースは、リペアが不調に終わったシビックにより再度のSCが発動するも、14周に延長されたなかで「不毛な争いを避けた」リンク&コー・シアン・レーシングがワン・ツー体制でゴールラインへ。

 ウルティア、ビョークに続いてバービッシュのアウディが表彰台に立ち、ヨーロッパ組ではコロネルが世界戦組のハフに先んじて総合5位でフィニッシュ。フィリピが総合9位に続き、ここでもコムトゥユー・レーシングがワン・ツーを飾る結果となった。

 これでTCRワールドツアーはミケリス、アズコナのヒョンデ・モータースポーツのカスタマーレーシング部門を代表するふたりが、そしてヨーロッパではコロネルとフィリピが同点発進を決める展開に。続く第2戦は前者が5月27~28日のベルギーはスパ・フランコルシャンで、後者が5月13~14日のフランス・ポー市街地でナイトレースの開催を予定している。

R1でまさかの同士討ちを演じたリンク&コー・シアン・レーシング陣営。「チームメイト同士でこうなるのは申し訳ない」とヤン・エルラシェール(リンク&コー03 TCR)
しかしR2ではしっかり挽回を果たし、サンティアゴ・ウルティアとテッド・ビョーク(リンク&コー03 TCR)が1-2を決めている

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