「誰かがやらないと新たな発見ない」“海の厄介者”に虜の料理人が専門店を開いた理由【現場から、】

怖い顔をしている魚ウツボ。伊豆半島の漁師からは“厄介者”と呼ばれ、使い道のない魚「未利用魚」です。そんなウツボの虜となった料理人が5月、静岡県伊東市に専門店をオープンしました。

漁師から厄介者といわれるウツボです。

<地元の漁師>

「長靴(の上)から噛まれる」

Q.素手で捕まえようとするとどうなる?

「素手?噛まれたら大変でしょ。そんなことはしないです」

<仲間の漁師>

「ウツボはいいことないよ。ウツボは網をダメにする」

そんな“海の厄介者”を提供する店が5月1日、伊東市にオープンしました。店名はズバリ、「うつぼ」。

<客>

「うまい。外はぱりぱり、中はトロっと。脂はあるんですけど、しつこくなくて、自分はすごい好きです」

このウツボをおいしい料理に仕立てるのは、店主の米田憲さん32歳。この道18年の料理人です。そのおいしさを広めたいとウツボ料理の専門店を開きました。ウツボの魅力を知ったのは3年前。知り合いの釣り仲間が店に持ち込んだことがきっかけでした。

<「うつぼ」店主 米田憲さん>

「ウツボを持ってきたその日にさばき方も分からなくて、骨削りながら身を取って、10人中10人に食べてもらったときにみんな口をそろえておいしいと言ったので、これはいけるなと」

ウツボの虜となった米田さん、ウツボの刺身やみりん干し、ウツボの頭を唐揚げにした「ギャング揚げ」など、さまざまな食べ方を提案しています。

ウツボを積極的に獲る漁師はいません。地元で1本釣りの漁師をしている石井泉さんは、漁場を荒らすウツボを少しでも減らそうと、月に数日だけウツボ漁をしています。

<一本釣り漁師 石井泉さん(75)>

「単価的には安いよ。ほかの漁師はやらないと思う」

市場には出回らないウツボ。米田さんは自ら調達します。

<米田憲さん>

「ウツボがいっぱい潜んでいるスポットです。夜の方が釣れるイメージがあります。釣れるまでやりますね」

ウツボが敬遠される理由は扱いづらさだけではありません。さばく技術も求められます。ウツボには数百本もの骨があり、多くは身の中にあるため、ウツボの構造を理解していないと捌くことはできません。米田さんは研究を重ね、職人がさばくのに1匹あたり20分はかかるといわれる作業をわずか5分でこなします。

<Teamうつぼスタッフ 松林柊さん>

「簡単そうにやってますけど、くっそ難しいです。僕もいろんな魚さばきましたけど、レベルが違いますね」

米田さんの技術は、口コミで全国に広がり、東京の飲食店でウツボのさばき方を教えるまでになりました。米田さんがウツボと出会うきっかけとなった友人は…。

<米田さんの友人>

「SNSで活動してて、全国的にも広まっているので伊豆の新しい名物になればなと思います」

<「うつぼ」店主 米田憲さん>

「誰かがやらないと新しい発見もないですし、僕らの後の若い方にも伝えられて、次から次へと未利用魚から有利用魚にできればいいなと」

<井手春希キャスター>

取材に当たった神谷カメラマンです。ウツボは食べましたか?

<神谷修二カメラマン>

刺身をいただいたんですが、すごいおいしいです。弾力があって、うま味もあってフグのような食感です。米田さんは、2年前にもウツボ専門店を静岡県三島市に開きましたが、新型コロナの影響もあり、やむなく店を閉めました。しかし、ウツボのおいしさを多くの人に知ってほしいという夢は諦めきれず、5月の伊東でのオープンに至りました。米田さんはウツボの次はサメの活用を考えているそうです。

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