7日に行われるコパ・デル・レイ決勝でレアル・マドリーと激突するオサスナ。
チームの得点源となっているのが、アルゼンチン人FWエセキエル・アビラだ。
29歳の彼は体中にタトゥーを刻んでいるが、『Guardian』によれば、壮絶な生い立ちをしてきたという。
9人兄弟のひとりであるアビラは、ロサリオ北東部にある銃弾がいつ飛んでくるかわからないような地区で育った。そこではギャングが争い、彼も武装していた。
彼の家はトタン屋根で、雨が降ると雨漏りし、風が強いと飛んでいく。しかし、ドアのすぐ外にはピッチもあった。そこに彼を鍛えた恐怖もあった。
プレッシャーが欲しいか?秘密の試合では、ゴールが生き残る術だったがサバイバルだった。
「これは違う」とアビラは言う。
「世界最高のGK(レアル守護神クルトワ)といい勝負ができる。当時は、銃を首から下げたGKと戦っていたかもしれない。
ビッグクラブにはアカデミーがあり、俺はエンパルメに所属していた。7~8年前を振り返ってみても、まさか決勝戦でプレーできるとは思ってもいなかったね。
朝4時のPKを決めて、家族が食事ができればと思っていた。夜中に外に出る、そこでは金のために試合が行われていた」
「1vs1、PK、で、賭けになる。プレー100、GKに200、PKキッカーに300…。
今の子たちには、ゲームとしてプレーを楽しむように言っている。金が発生したら、話は別だからね。
プロサッカー選手はある種の商品であり、誰かのものだが、ヒスパニック地区でも似たようなものだ。
自分の“銀”のためにシュートする。そいつは自分の“銀”のために。他の人間、“重い”人間のために。
ギャングのリーダーがやってきて、『俺のためにPKを蹴れ』と言う。ノーとは言えないだろう。
勝てば金がもらえるし、俺には食事が必要な兄弟がいる。
ボールを置く、小さなゴールで人々が邪魔をしている。キーパーがこっちを見てる。そして、こう考える。もしゴールしたら、1週間食っていける。もし失敗したら…と」。
アビラが、殺されたり、刑務所に入れられたりした友人について語る瞬間がある。今のほうが貧困や犯罪がひどいエンパルメは「ボールよりも銃を手にする方が簡単」な場所だった。
憐れみはなく、騒々しく暖かい仲間たち。フアン・ロマン・リケルメとトニ・クロースがアイドルだったという彼は「俺には全く合ってなかった」と笑う。
「自分を恥じたことはない」というが、それは後悔がないというわけではない。
彼の人間性は、貧しさのなかでの強さと決意で作られた。食べ物を無駄にしたり、水道を出しっぱなしにするのはありえない。
父親は中毒の問題を抱えており、やがて母親の“腹痛”は子供たちにわずかな食料しか与えられない口実だったことを理解した。
アビラは10歳で初めてタトゥーを彫った。ペンと針で自作したものだ。
そして、15歳で結婚。彼女は母親と同じように彼をストリートから引っ張り出してくれた。
「サッカーが俺を引き抜いてくれた」。ティロ・フェデラルにいた頃、ユニフォームやボールを盗んだという冤罪で、兄弟や清掃員だった母親とともにクラブを追い出されたこともあった。
2年ほどはボールを蹴ることもなかったが、「神は誰もに贈り物を与える。自分が愛すること、何のために生まれたかを忘れてはいけない」と語るアビラはたくさんのことをした。
「台車で段ボールや鉄くず拾いもやったし、レンガ職人、塗装工、髪切りなど何でもやった」。
ただ、誰のことも傷付けなかったし、それを掟にしていた。彼が語っているのは、不品行、不良仲間、喧嘩、武器、物を“拝借”したこと。
「アルゼンチンには良い選手たちが大勢いるが、ボールよりも銃を見つけるほうが簡単さ。
彼らには必要なんだ。自分を信じてくれたり、チャンスをくれたりする人間や、サッカー選手になるという夢、食べ物やスパイクをくれる誰かが。
刑務所のなかで試合を見ようと思えば、レアル対バルセロナ戦を見るよりもいい時間が過ごせる。間違いない。だが、誰も助けてくれない。彼らは子供ではなく金を見ている」
「様々な感情が去来する。7年前の自分がいたところを考えれば、欧州最高のチームと決勝戦で戦えるのはいいことさ。
“あの”ピッチでは恐れないこと、素早くフィニッシュすることを学んだ。試合に勝てば、食いものにありつけるし、その分より楽しめた。
人生の教訓もある。本物の教師は家にいる。自分は彼らの犠牲から学んだ。恐怖、必要なもの、幸福感とともに生きることを学ぶ。
俺たちは誰もが、心に恐れを抱いている。時にはそれを示したり、示さなかったりする。
俺が毎日働くのは、いま抱えている唯一の恐怖は身近な人達や母を失望させることだからだ。
その教訓のおかげで今の自分はここにいる。全ての出来事には理由がある。大変だが、それが教えてくれる。
なぜだか分からないが、ノスタルジーを感じることがあるんだ。
昨日、家で妻や母、兄妹たちと一緒にいたんだけど、どこかほかの場所に飛んでいって、会話が完全になくなったような感覚になることがあるだろう。そうなったんだ。
『あと2日だ。俺は決勝を戦う。当時ならすればありえない』、『どれほど長い旅だったか』って考えてた。
いまは近づいているし、自分でこう思う。『夢見ることはなんて美しいのか』ってね」
壮絶な生い立ちから這い上がったアビラは、「クルトワの研究?勉強なんて一切したことないよ」と笑っていたそう。
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注目のオサスナ対レアル戦は日本時間7日午前5時にキックオフされる。