芸能界を辞めジャマイカに渡った元アイドルの今 シングルマザーで4人子育て「ラスタ」とは「生きる術」

芸能界のアイドルを辞め、憧れのジャマイカに渡って約30年。現地男性との間に生まれた4人の子どもを育て、現在は日本を拠点にジャマイカ流の生き方「ラスタ」に根ざした食の普及活動などを続けるiYUMi(アユミ)という女性がいる。その姿を追ったドキュメンタリー映画も制作中だ。〝レゲエの神様〟ボブ・マーリー(1981年に36歳で病死)の命日5月11日が51歳の誕生日となるiYUMiが、よろず~ニュースの取材に対し、これまでの人生や思いを語った。

72年、東京生まれ。89年にアイドルグループ「モモコクラブ」のメンバーとして芸能界デビュー。ハイレグの水着姿で数々の雑誌でグラビアを飾った。日本がバブル景気に沸いていた頃の話だ。

「当時は六本木に住んでいました。お金持ちや大使館員の息子、芸能人の娘とかに囲まれて、表面はキラキラして楽しいんですけど、物資的に満たされても気持ちが満たされていない感じで、ドラッグに手を出したり、病院に入った子もいた。六本木には老舗のレゲエクラブがあって、私は中学生の時にドレッドヘアをした人たちとすれ違って興味を持ち、回りの女の子が光GENJIや少年隊に夢中だった時代、ボブ・マーリーやピーター・トッシュ(※ジャマイカの世界的ミュージシャン。87年、42歳で射殺)が私のアイドルでした」

グラビアアイドルはドレッドへアにした。「(周囲に)『ヒッピーかホームレスか?あゆみは狂った』と言われたんですけど、私はおかしいとは思わなかった」。事務所の社長から「アイドルを取るか、ドレッドを取るか」と迫られ、迷わず「ドレッド」を選択。90年代に入ってジャマイカに渡った。

「絶対、ジャマイカに行きたかった。このままアイドルを続けていても、その時はちやほやされても次のステップは?という時にビジョンが見えなくて。それだったら、もっと人間の生きる価値の基本を見てみようと思った」

芸能人からラスタ・ウーマンになった。94年に現地男性との結婚を機に本格移住。民間療法を学ぶなどして現地のコミュニティーに溶け込んだ。2004年に再婚し、4人目の子どもが10年に生まれたのを機に家族と共に帰国。いずれはジャマイカに戻るつもりでの〝出稼ぎ〟的なUターンだった。

「子どもがある程度大きくなるまで日本でお金を貯めて、近い将来、ジャマイカの家を増築して、老後は夫婦でゲストハウスをやるのもいいね…みたいな話をしていた」。だが、14年に夫が先天性の「プロテインC欠乏症」を発症して日本で死去。43歳の若さだった。15年には前夫も死去。「日本で目の前にいる子どもを育てることが優先になった」。現在も住む茨城県内で一男三女を育てた。

ジャマイカには制作中の映画「ラスタ・ウーマン—ラスタを生きる女」撮影のため、15年からコロナ禍前まで再び足を運んだ。「日本に行かなければ死ななかった」とiYUMiを責める夫の親族との壮絶なやりとり、そして、危険地域のゲットーや神聖なラスタの儀式など貴重な映像の数々が記録されている。

同作の中村保夫監督は「僕の弟の友人で旧知の仲。こんなに明るくてパワフルで行動的で物怖じしない女の子は他に見たことがない。普通の日本人では入れない場所を撮影できたのも、彼女がジャマイカで認められている証でしょう。ありのままのジャマイカが撮れた」と振り返る。

ジャマイカはカリブ海に浮かぶ秋田県と同じほどの大きさの島国。スペインや英国に統治された同国人のルーツはアフリカから連行された黒人奴隷であったことから、アフリカ回帰思想に基づく生活の実践者を「ラスタファリアン」「ラスタ」などと呼ぶ。そのライフスタイルの1つがオーガニックな食事「アイタルフード」。無農薬の野菜や果物中心で、肉は食べないが、動物性タンパク質として白身魚だけ食べるという。iYUMiは雑穀マイスター、ベジタブル&フルーツ・アドバイザーなどの資格を持ち、日本で手に入る食材を使ったアイタルフードの普及に務めている。

「ラスタとは、この世の中を生き延びていく上での最大の術(すべ)のこと。ドレッドなどの見た目じゃなく、心がルーツでつながっていればいい。(処世術的な意味ではなく)健康的に、人間らしく生きる術です。宗教とは間違えられたくなくて、生き方そのもの。その中でも食事が一番基本だと思うんです。それを仕事としてやっていきたい。ウサイン・ボルトも食べて足が速くなったと言われているヤムイモをスープとか煮物にする料理教室をやらせてもらったり、石けんを作ったり、衛生食品責任者の資格を取ったので、CDBオイル入りの麻炭パンを作ってイベントなどで販売したりしています」

そして、最後にぽつりと漏らした。「明日にでもジャマイカに帰りたい」。24歳の長女は独立したが、末娘は13歳になったばかり。日本でもうひと踏ん張りだ。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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