<社説>土地規制法初指定 権利制限する法の廃止を

 政府は国境離島や米軍、自衛隊施設周辺などの土地利用状況を調査し、取引を規制する「土地利用規制法」の対象区域の候補地に、自衛隊駐屯地がある石垣、宮古、与那国など県内39カ所を選び、土地等利用状況審議会に示した。8月ごろに正式指定される。 昨年9月の全面施行以来、沖縄への区域指定は初めて。今年2月には北海道、青森、東京、島根、長崎の5都道県の離島や自衛隊施設など計58カ所が規制区域に指定された。

 国民の権利を際限なく制限する法律の適用を認めるわけにはいかない。各島に置かれた自衛隊駐屯地などへの指定は地域住民の権利を脅かし、重大な人権侵害を招く恐れがある。安全保障を名目に住民を監視下に置くような政府の行為は許せない。区域指定は撤回し、法も廃止すべきだ。

 2019年の与那国駐屯地の配備以来、先島では自衛隊の増強が進んでいる。「台湾有事」を想定した自衛隊の「南西シフト」は地域住民の重圧となっている。

 今回の区域指定はさらに住民を圧迫することになろう。先島を軍事拠点と住民監視の地にしてはならない。

 この法律は自衛隊基地や米軍基地など防衛関係施設、海上保安庁施設、原子力発電所、領海の根拠となる国境離島を「注視区域」「特別注視区域」に指定し、政府は利用状況を調査する。重要度の高い「特別注視区域」は一定面積以上の土地売買に対する事前の届け出を義務付ける。

 政府の調査対象となるのは土地・建物の所有者の名前や国籍などだ。不動産登記簿や住民票を収集して調べる。個人情報に属するものであり、国民のプライバシーを侵害する恐れがある。土地取引の届け出義務は経済活動にも影響を及ぼしかねない。

 米軍基地や自衛隊が集中し、離島を抱える沖縄は全国で最も広範囲に影響を受けることになる。調査・規制対象となるのは施設などの周辺1キロの圏内である。街中に米軍基地がある地域では住宅地もまるごと対象となるだろう。住民にとっては到底受け入れがたい話である。

 特に危険視されているのは、政府による法律の恣意的運用によって規制を拡大する可能性だ。

 法律に基づき、政府は施設への妨害行為に対する勧告や罰則付きの命令を出すことができる。仮に米軍や自衛隊基地に反対するデモや集会が規制対象となれば憲法が定める「表現の自由」の侵害となる。市民運動への重大な脅威となる。

 県は土地利用規制法に対し慎重な対応を政府に求めている。玉城デニー知事は12日の会見で「注視区域などの指定は真に必要最小限にとどめる必要がある」と述べた。

 県民生活が侵害されることがないよう監視が必要だ。この法律を使い、政府が国民の思想や行動を縛ることがあってはならない。

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