「トップクラス」の青ネギ生産量、原動力は技能実習生 給料や待遇…ベトナム帰国後の雇用先も用意 淡路島の農業法人の挑戦

生産した青ネギをアピールする技能実習生や、特定技能で働くベトナム出身者たち=南あわじ市志知北、アイ・エス・フーズイ・エス・フーズ

 兵庫県淡路島の農業法人「アイ・エス・フーズ」は、中小事業体としては国内トップクラスの青ネギ生産量を誇る。創設9年の法人を押し上げた原動力は、ベトナム出身の技能実習生ら。酒井恵司会長(64)は外国人が働きやすい環境づくりを模索し、帰国後の暮らしにも心を配ることで実習生の信頼を得てきた。人手不足に悩む地域で、休耕田や空き家を生かした試みは、新たな事業モデルとしても注目される。(津谷治英)

■かつては電子部品メーカーの社員

 南あわじ市の田園地帯。太陽の光を浴び畑一面に青々としたネギが育つ。

 地主の高齢化で耕作できなくなった農地を「アイ・エス・フーズ」が借りて耕す。南あわじだけで15ヘクタール、さらに丹波篠山市で5ヘクタール、徳島県でも20ヘクタールを有し、県外の農家とも契約を結んで増産を図る。

 地元出身の酒井さんが2014年に創業した。かつては電子部品メーカーの社員だったが、農業に関心があり、目をつけたのが青ネギ。知人の青果店から「青ネギ不足」を相談され、地元特産のタマネギの半分の期間で収穫できることも参入のチャンスととらえた。「3カ月で出荷できるから年4回生産できる」

 しかし、少子高齢化が進む地元での人手確保は容易でない。腰をかがめての重労働を担える若者も少ない。頼ったのが、外国からの技能実習生だった。

■ベトナムまで足を運び人材発掘

 まず心を砕いたのが、実習生との信頼関係。安価な労働力として過酷な職場で働かされる例も耳にしていた。

 制度上、実習生の受け入れは監理団体を通さねばならない。知らない団体に紹介料を払って依頼するよりは-と4年前、仲間と新たな監理団体「淡路島事業協同組合」を立ち上げる。自らベトナムまで足を運び、人材を発掘。採用前に日本の生活、仕事を説明し、不安の解消に努めた。

 住まいは、地域で増えつつあった空き家を活用することに。10LDKの民家を購入して寮とし、今は女性12人が入居する。洗濯機、冷蔵庫を備え、寮費は1人1万円。酒井さんは「都会だと狭い部屋でも家賃が5万~6万円する。生活は苦しくなり、トラブルの原因になる」。

■故郷で店を開くのが夢

 6年前に技能実習生として来日し、現在は「特定技能」の在留資格で働くグゥェン・ティ・トゥイさん(34)は「寮が広いから、週末は仲間とパーティーを楽しんでいる」とほほ笑む。コロナ禍以前は、花見や社員旅行もあった。貸与された自転車で通勤し、多い月だと手取りが20万円超。母国の10倍といい、「ここで稼いで、故郷で店を開くのが夢」と話す。

 酒井さんは、ベトナムの友人に相談し、現地にも農産物の生産拠点を設けた。技術を得た実習生らに帰国後の雇用先も用意することで、安心して日本で働いてもらうためだ。

 今では県外を含め約60人の従業員のうち、およそ半数がベトナム出身者。月200トンの青ネギを生産し、飲食店向けの出荷が多い。その安定供給が評価され、21年には国の「全国優良経営体表彰経営改善部門」で農林水産大臣賞に輝いた。

 「実習生たちのおかげ」と酒井さん。外国人材は高収入を求めて都市部に流れがちだが、「地方でも受け入れ側の努力で心が通じ合えば、互いに気持ちよく働ける。しいては地域の再生につながる」。実習生らに「ニッポンのお父さん」として慕われる柔和な笑みで語った。

■政府有識者委、「技能実習」廃止と新制度創設を提案

 外国人技能実習制度は1993年に始まった。「人材育成を通じた国際貢献」が目的だったが、実際には不足する労働力を補うために受け入れているケースが多い。賃金未払い、パワハラなどが社会問題化し、失踪者も後を絶たないため、人権侵害との批判が強まっていた。

 そのため政府の有識者会議は今年4月、技能実習を廃止し、人材確保を目的とする新制度の創設を提案。案では、これまで原則不可だった受け入れ先の転籍をしやすくする。

 「外国人労働者は日本の経済にとって欠かせない存在になった」と話すのは、「ルポ技能実習生」(ちくま新書)の著書で、ジャーナリストの澤田晃宏さん(神戸市長田区出身)。その上で「(新制度で)転籍しやすくなれば、都市部への人材集中がさらに加速するだろう」と指摘する。

 澤田さんは、賃金で及ばない地方で外国人材を確保していくためには、例えば「住居の無償提供などで手取り収入を増やし、口コミで外国人が集まるような職場づくりが大切」だとし、帰国後の雇用など手厚い待遇で業績を伸ばした「アイ・エス・フーズ」の取り組みに着目している。

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