<金口木舌>「復帰51年」の源流に

 復帰目前の本島北部。テラピアの棲(す)む川のそばに暮らすブラジル帰りの老人と少年の人生が交錯する。目取真俊さんの小説「ブラジルおじいの酒」(1998年)

▼大人になった少年は沖縄の高校生の過半数が復帰はいつか言えないことを新聞で知る。復帰から年月が流れた。「だから、どうということもないのだけれど」

▼復帰40年で県内外に関係者を訪ねた。沖縄戦や米統治への無知や無関心、就職で遭った差別、米国にルーツを持つが故のいじめ、憲法9条や民主主義への渇望と失望。あふれる思いに話は夜遅くまで続いた

▼小説では復帰前の世間が浮つく中、友人が少年に日本の1円玉を見せる。「色も、軽さも、絵柄も全て気に入らなくて」。復帰はいいことばかりでないと悟る

▼終戦から5年、老人は沖縄に戻る。家族は沖縄戦で全滅し、故郷は金網の向こうだった。ブラジルにたつ前に「一緒に(まじゅん)飲(ぬ)まやー」と父と約束した泡盛の甕(かめ)と共に戦後を生きた。復帰の源流に横たわる沖縄戦。新基地建設も進む沖縄はきょう、「復帰51年」を迎えた。

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