タンタンを別名で呼ぶ理由は? #に込めた思いは? 「神戸のお嬢さま」見守る「チームタンタン」に密着

好物のサトウキビジュースを真剣な目つきで飲むタンタン=神戸市灘区王子町3

 もふもふで愛らしいフォルムに、口角が上がったかわいい表情。「神戸のお嬢さま」と呼ばれ、人々を引きつける人気者の正体は、神戸市立王子動物園のジャイアントパンダ・タンタン(旦旦、雌、27歳)。人間の年齢だと80代に差しかかる売れっ子を見守る「チームタンタン」に密着すると、マイペースな暮らしぶりが見えてきた。(安藤真子)

 タンタンは2000年7月、日中共同の飼育研究を目的に来園した。03年から雄の初代コウコウ(興興)と人工授精に挑戦し、08年に待望の赤ちゃんを出産したが、4日目に失った。10年に2代目コウコウが急死後は1頭だけに。2年前、心臓疾患が見つかり、今は検査と治療に専念している。

◆目覚めは午前7時。大好きな二度寝も

 午前8時前。パンダ舎を訪れると、飼育員の梅元良次さん(41)と吉田憲一さん(54)がタンタンの部屋の掃除やジュースの準備をしていた。

 梅元さんの朝は早く、6時半ごろに出勤し、タンタンの様子を映し出すモニターのスイッチをオン。コーヒーを飲みながら夜の様子などを確認する。

 この日のタンタンの目覚めは午前7時前。そこから大好きだという二度寝をはさみ、7時半ごろ、むくっと起き出したという。

 同8時、好物がもらえる時間がやってきた。心臓疾患用の薬を混ぜたサトウキビジュースで、2人がタンタンの部屋を掃除している間に別の部屋で飲む。

 「(ジュースを)もらうためには1回部屋を出なあかんって分かってんねん」と吉田さん。のそのそと別の部屋に移動したタンタンは、ボウルに入ったジュースをぺろぺろと飲み始め、あっという間に飲み干す。名残惜しそうに空になったボウルを何度もなめ回していた。 ◆食欲が増え、うんちも安定

 梅元さんと吉田さんはこの間、デッキブラシで部屋を掃除。夜の間にしたうんちも取ってきれいにする。竹を主食にするパンダは、気候や竹の状態でうんちの状態が変わる。

 梅元さんは「健康チェックとしてうんちの状態確認は大切。あまり食べてくれない時期は、ゆるいことが多かった」と説明してくれた。この日は、ころころとした俵型のものが多く「最近は竹を食べることが増え、安定してきた」と話す。

 掃除している2人を時折、気にするそぶりを見せつつ、タンタンは3メートルほどの廊下をうろうろ。2人はホースで水をまきながら、木製のベッドや床など隅々までごしごしと磨き、水はけで水分を取り除く。窓を拭き、部屋が乾燥するのを待つ。

 タンタンの様子をうかがいながら、梅元さんが写真を狙う。タンタンは廊下から外をのぞいたり、ひなたぼっこしたりと、休み休みのらりくらり。 ◆タンタンには別名が

 掃除を終え、2人がバックヤードに戻るのは午前9時を過ぎる。園に資料提供する写真や、この日更新するツイッターの投稿写真を準備。発信する写真は「たくさん撮影して、表情が分かるものやファンが見たい写真を選ぶ」という。

 「ソウソ~ウ」。梅元さんが、廊下で気分転換しているタンタンの様子を見ながら呼びかけ始めた。何げなく眺めているように見えるが、呼吸の深さなどを観察しているという。

 気になったのは「ソウソウ」という呼び方。タンタンは来日時に付けられた日本名で、中国名は「爽爽」と書いて「スウァンスウァン」。飼育員はタンタンが反応しやすいよう、中国名で呼び続けているという。 ◆毎日検査もどこ吹く風

 同10時ごろ、検査の時間が始まる。獣医師がパンダ舎に到着すると、タンタンも診察室となっているトレーニングルームに移動。ここでも大好きなジュースがもらえる。

 この日の検査は15分ほどで、触診や血圧測定に加え、心臓の超音波検査と採血もした。検査は非公開となっているため取材できなかったが、「落ち着いて受けていました」と教えてくれた。

 心臓疾患が発覚して2年余りになる。「改善や悪化ではなく、状態が落ち着いていることが大事」と梅元さん。現在の体調は安定しており、「タンタンの気分が乗らない日は、1日くらい検査をスキップしてもいいという心の余裕がある」と話す。

 検査を終えたタンタンは、のそのそとトレーニングルームから出て、そのまま階段を上って木製のベッドに向かった。頭の方向を考えて回ってみたり、止まったり。前足を伸ばして「うーん」とストレッチすると、そのままゴロン。右足を縁にかけるお気に入りのポーズでリラックスしていた。 ◆#に込めた思い

 許された半日間の密着の最後に、気になっていたことを2人に聞いてみた。「#また明日ね」。毎日更新するツイッターの最終投稿には欠かさず付いている。どんな思いを込めたのか。

 心臓病で観覧が難しくなったころから加えるようになったという。高齢で検査を続けるタンタンを見守る気持ちが凝縮されたハッシュタグ(検索目印)には、飼育員の思いも、ファンの思いも重なる。

 2人は「タンタンのペースで心地よく過ごしてほしい。退勤時には『また明日な』とあいさつして帰るんです」と口をそろえた。

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