金守氏の収集品、国立民族学博物館に2千点寄贈 元富山新聞社員の版画家

夫の金守世士夫氏と集めたコレクションを国立民族学博物館に寄贈した嘉子さん=富山市内

  ●インドネシアの木彫や織物

 元富山新聞社員の版画家・金守世士夫氏(2016年死去)が1985(昭和60)年ごろから約30年かけて収集したインドネシアの木像や織物、装飾品など約2千点が国立民族学博物館(大阪府吹田市)に寄贈された。収集品の搬出が15日、富山市内の倉庫で行われ、妻嘉子さん(86)が思い出の詰まった品々に別れを告げた。寄贈品は当時の現地住民の暮らしを伝える貴重な資料となり、今後、同館研究員が学術調査を進める。

  ●棟方氏に師事

 金守氏は1922(大正11)年、高岡市生まれで、戦後故郷に戻り、富山新聞に入社。世界で活躍した板画家・棟方志功氏に師事し、漫画家藤子不二雄Ⓐ氏の上司だったことでも知られる。

 寄贈品のほとんどは現地住民が手作りし、家庭で使っていたもので、上着などの衣類や敷物など布類が最も多い。祭事に使う面や盾、祖先をかたどった人型の像や神の使いを表した鳥型の像など木彫、現地の家で使われていた扉もある。

 嘉子さんによると、金守氏はインドネシアの島や集落ごとに異なる像の形、織物の模様に興味を持ち、収集を始めた。現地の日本語学校に通う学生に通訳を頼み、車で片道8時間かかる山奥の集落にも出向いた。

 金守氏は交渉する現地の住民に富山弁で語りかけた。嘉子さんは「熱意にほだされたのか、多くの人が応じてくれた」と振り返る。年に2、3回訪れ、渡航回数は100回ほどになった。収集品は家や庭、アトリエに飾って楽しんだ。

  ●被災地支援目的でも購入

 金守氏の収集はインドネシアで有名になり、1992(平成4)年に発生したフローレス島地震では、復興資金を調達する被災集落の首長が伝統的なビーズを使ったマットの購入を持ちかけてきた。バリ島にいた金守氏は復興の一助になればと資金をかき集め、マットを買い取った。

 金守氏は、嘉子さんに収集品を売買せず、富山で研究や学問を目的に一括で引き取ってくれる人に譲りたいと遺言した。富山での保存はかなわなかったが、嘉子さんは「当時のことを鮮明に思い出す品々が、ちゃんとしたところに納まって良かった」と話した。

 国立民族学博物館情報管理施設企画課標本資料係の小関万緒さんによると、布類の破れや木彫の破損がほとんどなく、保存状態は極めて良好。文化財としての価値が今後の研究で明らかになっていくとし、「苦労した収集品を預かることに責任を感じる。展示する機会を作りたい」と話した。

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