【SNS特報班】兵庫県明石市の佐野洋子副市長に聞く

インタビューに応じる佐野洋子副市長=兵庫県明石市中崎1丁目の明石市役所

 「すべてのこどもたちをまちのみんなで支える」を理念に掲げる兵庫県明石市。18歳までの医療費や第2子以降の保育料など所得制限のない「5つの無料化」のほか、児童相談所設置など幅広い施策を展開し「子育て支援先進地」として注目を集める。方針を打ち出した泉房穂前市長の就任後、子育て支援課長やこども局長を務めた佐野洋子副市長(57)に、これまでの道のりや今後の課題を聞いた。(4紙合同取材班)

 ―なぜ子ども施策に力を入れるようになったか。

 「前市長の就任前は、明石市も人口減少の問題に直面していた。『子どもを支援していくのが行政の仕事』という前市長の考えが何より大きかった」

 ―妊娠期から高校生まで切れ目なく支援している。どのように実現してきたか。

 「2013年に始めた中学生までの医療費無料化が第一歩。当時は予算の中で高齢者施策や土木関係の占める割合が高く、限られた額の中でできることを探った。所得制限なしにするとの方針は賛否があったが、少しずつ人口が増え始めたことで、議会や市民の理解を得られるようになり、ほかの無料化事業を一つ一つ進めてきた」

 ―21年度の子ども施策費は297億円10年度比で2倍以上になった。財源は。

 「まず土木費を見直した。喫緊に取り組まなければならない事業か、ほかに方法はないかと毎年度精査し、21年度は73億円と10年度比でほぼ半減させた。市役所全体も局ごとに業務内容を見直し、正規職員を10年度から18年度で100人以上削減した。20年度までの8年間で市民税や固定資産税、都市計画税も計32億円増え、活用している」

 ―62ある中核市で19年度の一般会計の歳入は54位。豊かでなくても取り組めたのは。

 「神戸や大阪まで電車一本で行ける地の利はあるが、ほかに優位な要素はない。市の予算を何に使うかという前市長の決断が大きかった。そこに、元々活発だった地域のコミュニティー活動でも子ども支援への理解が広まり、相乗効果をもたらしたのではないか」

 ―すべての子育て世帯への支援にとどまらず、児童福祉分野にも力を入れている。

 「19年に関西の中核市で初めて開設した児相は『子どもを中心に考える』がビジョン。児相は保護者対応が中心になりがちだが、一時保護中でも子どもが行きたいと思えば通学を認めたり、なるべく家庭的な環境で過ごせるようにと里親登録を進めたりしている」

 ―全28小学校区に子ども食堂がある。

 「貧困対策ではなく、地域の気づきの拠点と示している。運営してくれるボランティアには児童虐待などの研修を受けてもらい、支援が必要な子どものサインに気づいたときには児相につないでもらう体制を取っている。高齢化が課題の校区では『みんな食堂』の役割もあり、コロナ禍前はさまざまな人の居場所になっていた」

 ―今後に向けて。

 「今秋以降、16歳から18歳までの全員を対象に1人当たり月額5千円の児童手当を市独自で始める。高校生向けの給付型奨学金制度を設けているが、家庭の経済的事情など切実な声が寄せられていた。子どもが増えたことで、教育環境整備も課題になる。市民や企業の寄付による『こども基金』を活用し、子どもたち自身がやりたいことをかなえられるよう応援していきたい」

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