【連載コラム】第12回:快進撃を続けるオリオールズ 立役者は「大飛球がスタンドインしない」本拠地球場?

写真:昨年大幅な改修が行われたオリオールズの本拠地オリオール・パーク・アット・カムデンヤーズ @Getty Images

ド派手な快進撃を続けるレイズの陰に隠れてひっそりと着実に白星を積み重ねているのがオリオールズです。日本時間5月16日の全試合が終了した時点で、26勝15敗はアメリカン・リーグ2位の好成績。2年前の2021年シーズン、26勝目を挙げたのが6月末(80試合目)だったことを考えると、ここ2シーズンの躍進ぶりには目を見張るものがあります。

写真:オリオールズ躍進の象徴と言われるアドリー・ラッチマン @Getty Images

2018年に球団史上ワーストの115敗、2019年に108敗、短縮シーズンの2020年を挟み、2021年にも110敗を喫したオリオールズが浮上したきっかけの1つが2019年ドラフト全体1位指名の超有望株アドリー・ラッチマンのメジャー昇格でした。昨季も開幕40試合で16勝24敗と負けが先行していたオリオールズですが、ラッチマンが昇格した5月下旬以降の122試合では67勝55敗。6年ぶりに勝率5割以上でシーズンを終えました。7月上旬に10連勝を記録するなど、一時はワイルドカードも狙えるほどの勢いを見せ、大きな話題に。ラッチマンはイニングが終わるたびに投手へ駆け寄ってコミュニケーションを取り、勝利後に笑顔で投手と交わすハグはオリオールズの躍進の象徴となりました。もちろん、ラッチマン1人の力というわけではありませんが、新たなヒーロー、新たなスター、新たなリーダーの登場がチームに勢いを与えたことは間違いないでしょう。

もう1つ、オリオールズの躍進に大きく寄与したのが本拠地オリオール・パーク・アット・カムデンヤーズの改修です。昨年1月、マーク・エライアスGMは本塁打を減らすためにフィールドの左翼部分を広くし、フェンスを高くすることを発表。左翼フェンスは約8メートル下げられ、フェンスの高さも約2メートルから約4メートルに変更されました。この結果、オリオール・パーク・アット・カムデンヤーズで生まれた本塁打は2021年にメジャー最多の277本だったのに対し、昨季は同23位の152本と激減。「本塁打の出にくい球場にしたい」というエライアスGMの思惑通りの結果となりました。「ジ・アスレチック」でオリオールズを担当するダン・コノリー記者の記事によると、昨季オリオール・パーク・アット・カムデンヤーズでは「2021年までならスタンドインしていた」という打球が57本もあったそうです。エライアスGMは「投手陣が良くなったと考えるのが自然かもしれないが、心理的な影響も無視できない」とコメント。左腕ジョン・ミーンズは「正直に言って、(球場が広くなったことで)みんな少し自信がついたと思う。ゾーンの真ん中近くに投げても大丈夫だから、ストライクを先行させることができるようになった」と心理的にポジティブな影響があったことを認めています。

スタットキャストでは「この打球は30球場中○球場で本塁打になった」というデータを公開していますが、MLB.comのマイク・ペトリエロ記者によると、2016年以降の全本塁打のうち約55%は球場に関係なく、全球場でスタンドインした打球だそうです。「30球場中29球場で本塁打になった」という打球、つまり「1球場以外では本塁打になった」という打球に着目すると、2022年以降では「オリオール・パーク・アット・カムデンヤーズ以外の29球場では本塁打になった」という打球の本数がダントツ。他の球場ではスタンドインするはずの打球がスタンドに届かない。ミーンズが言うように、これがオリオールズ投手陣の心理にポジティブな影響を与えていることは間違いありません。

最後に、余談になりますが、「30球場中1球場だけで本塁打になった」という打球はヤンキー・スタジアムが最も多いそうです(2位リグレー・フィールド、3位ミニッツメイド・パーク)。

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