名古屋グランパスに宿る「緻密な攻守のメカニズム」。13年ぶりのリーグ制覇に必要なコトは?

記念すべき試合にふさわしい攻防が、国立競技場を彩った。

「Jリーグ30周年記念スペシャルマッチ」と銘打たれた明治安田生命J1リーグ・第13節の鹿島アントラーズvs名古屋グランパスの一戦。リーグ戦4連勝と上り調子の鹿島が堅守を誇る名古屋を強度と勢いで上回り、見事5連勝を飾った。

鹿島の勢いに屈した名古屋だが、今季は開幕からスタートダッシュに成功。安定感のある戦いぶりで、上位争いに食い込んでいる。2010年シーズン以来、13年ぶりのリーグ制覇に向けて歩みを進める名古屋に宿る緻密な攻守のメカニズム、そして栄光を掴むために必要なピースに迫った。

直近5試合の基本システム

まずは、直近のリーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神はリーグ屈指の実力者であるランゲラックで、3バックは右から攻撃センスにも優れる野上結貴、DFリーダーの中谷進之介、3月のキリンチャレンジカップで日本代表に初招集された藤井陽也。左ストッパーに丸山祐市が起用される場合は、藤井が右に回る。

ダブルボランチは攻守にフル稼働するキャプテンの稲垣祥と熟練のボールハンターである米本拓司のコンビがファーストチョイス。米本と交代で長澤和輝が後半途中から投入される起用法が多い。

ウィングバックは右に内田宅哉、左に森下龍矢という形が基本だが、両名を左右入れ替えたパターンも見られる。右はストッパーの野上と将来を嘱望されるドリブラーの甲田英將、左はマルチロールの和泉竜司も起用されている。

攻守のキーとなっているシャドーは、パンチ力のある左足が光るマテウス・カストロと抜群のスピードが自慢の永井謙佑が絶対的な存在だ。1トップと兼務する酒井宣福のほか、ウィングバックも兼ねる和泉と甲田、ボランチも兼ねる長澤、先日プロ契約を締結した17歳の貴田遼河がポジションを争う。

1トップは加入1年目でエースに君臨するキャスパー・ユンカーが1番手。献身的な働きで貢献する酒井が2番手で、ロアッソ熊本への期限付き移籍から復帰したターレスはこれからの成長に期待だ。

「5-4-1のコンパクトなブロック」が守備の基本

第13節を終えて、リーグ2位タイの10失点と堅守を誇る名古屋グランパス。最大の強みである守備のコンセプトは、以下の通りだ。

①自陣に5-4-1のコンパクトなブロックを形成してスペースを消す(基本)
②マンツーマンでハイプレスを仕掛ける(オプション)

まずは、①のコンパクトなブロックから見ていきたい。基本システムは3-4-2-1だが、このシステムを採用する多くのチームがそうであるように、守備時は両ウィングバックが最終ラインに、両シャドーが中盤に吸収され、5-4-1の形となる。

縦横がコンパクトな5-4-1のブロックを自陣に形成し、自ゴール前のスペースを消すことが基本的な守備の狙いとなる。ブロックを作って待ち構える形ゆえに、相手チームがボールを保持しながら自陣に侵入する機会は増える。必然的に被シュート数も多くなる(1試合あたりの被シュート数は8.92)のだが、そこで立ちはだかるのが、守護神のランゲラックだ。

在籍6シーズン目を迎えた背番号1はこれまで、数えきれないほどの好セーブでチームを救ってきた。落ち着き払った所作、経験に裏打ちされたポジショニングと判断力が光るが、193cmの長身をフルに活かした超人的なシュートストップは文字通り群を抜いている。

今シーズンもハイパフォーマンスを披露するランゲラックの凄さは、スタッツにも表れている。Jリーグ公式サイトによれば、今季のペナルティーエリア内でのシュートキャッチ率はリーグ3位の41.9%で、エリア外からのシュートセーブ率はリーグ1位の100%を記録している(※データは第13節終了時点の数値)。”最後の砦”であるランゲラックなくして、名古屋の堅守を語ることはできない。

②のマンツーマンディフェンスについては、第8節の川崎フロンターレ戦や第10節の横浜F・マリノス戦、第12節のガンバ大阪戦で見られた形だ。

横浜FM戦とG大阪戦を例に挙げると、1トップで先発した酒井宣福が守備時は中盤まで下がり、横浜FM戦ではボランチの渡辺皓太に、G大阪戦ではアンカーのネタ・ラヴィにマンマークでつき、攻撃の起点を封じた。酒井に加えて、2シャドーが相手センターバックまたはゴールキーパーに積極的なプレスをかけて、ビルドアップを分断する狙いが見て取れた。

前線からのプレスがとりわけハマった横浜FM戦後、チームを率いる長谷川健太監督は「(マンツーマンは)今回が初めてではなく、マリノスだからというのではありません。キャンプからチームに1つの戦術として落とし込んできました」と前置きしたうえで、以下のようにポイントを語っている。

「マリノスのトップ下とボランチをフリーにすると、攻撃が流れてしまうので、そこをどう断つのかがポイントでした。どのチームも研究していると思いますが、(アンデルソン)ロペスからエウベルへのラインがあるので、名古屋としてはその対策を持って、選手も理解をしてやってくれました」

基本的には5-4-1のコンパクトなブロックを自陣に形成し、自ゴール前のスペースを消すことが約束事になるが、上記の横浜FM戦のように、対戦相手の特長に応じてマンツーマンのハイプレスも仕掛ける。ランゲラックに加え、3バック一人ひとりの能力も総じて高いが、チームとして緻密な守備戦術を構築できていることが、代名詞の堅守につながっているのだ。

攻撃時は「前進」と「ロングカウンター」が軸に

一方の攻撃面では、以下がコンセプトになる。

①足元に優れた3バックを中心に、ボールを動かしながら前進(基本)
②スピード自慢のシャドーを活かしたロングカウンター(基本)
③高い位置でボールを奪い、ショートカウンターを発動(オプション)

基本的には、①の「ボールを動かしながら前進する」という形がベースとなる。3バックの野上結貴、中谷進之介、藤井陽也はいずれも足元の技術に優れるが、特にストッパーの野上と藤井が果たす役割は大きい。ともに前線へのフィード、持ち運びからの攻撃参加が特長で、攻撃の起点として機能している。

なお、3バックはビルドアップにこだわりを見せず、前への意識を高く持つ。最終ラインに限らず、チーム全体として前進志向が非常に強く、ボールを失うことに恐れがない。この点は今季序盤戦のJ1でトレンドとなっており、興味深いポイントである。

続いて、②のロングカウンターも大きな武器だ。5-4-1のコンパクトなブロックを自陣に形成して相手を引き込み、敵陣に生じた広大なスペースへ奪ったボールを素早く展開し、手数をかけずに一気に攻め込む。迫力満点の逆襲は一見の価値がある。

ロングカウンターで躍動するのが、シャドーのマテウス・カストロと永井謙佑だ。両名とも推進力があり、相手守備陣からすれば脅威そのものだ。特に快速アタッカーとして知られる永井は、ロングカウンターの局面で“水を得た魚”となる。キレのある動きで、ピッチを疾走する姿を幾度も披露している通りだ。

ただ、現チームの構造的問題がここに潜む。シャドーにマテウス&永井と同様に推進力のあるタイプが実質おらず、両名への依存度が高くなっているのだ。この点は、次のセクションで詳しく述べることにする。

最後に、③のショートカウンターについて触れたい。前述した1トップが中盤に下がってのマンマークおよびシャドー、ウィングバック、ボランチが連動したハイプレスから、高い位置でボールを奪い、最短距離でゴールに迫る。「良い守備から良い攻撃」を言葉通り体現する形であり、ショートカウンター自体の発動機会は数多くある訳ではないものの、やはり効果的だ。

13年ぶりの栄冠に必要なピースは?

鹿島アントラーズとの国立決戦を落とし、リーグ戦10試合ぶりの黒星を喫したとはいえ、依然として3位につける。首位を走るヴィッセル神戸との勝ち点差は6で、ここからの戦い次第では、首位浮上も十分に可能だろう。

守備ブロックおよび守備戦術の緻密さはJ1屈指であり、このストロングポイントが健在である限り大崩れはしないはずだ。ロングカウンターを軸とするスタイル的にも、暑い夏場の戦いにおいても大きなダメージを受けることはないと見る。

堅牢な守備が計算できる一方、鹿島とのビッグマッチで突き付けられたのは攻撃陣、とりわけ交代カードに潜む構造的問題である。シーズンが進むにつれ浮き彫りになったが、シャドーのマテウス・カストロ&永井謙佑と同じ役割で働ける選手が乏しいのだ。

この両名のほかに同ポジションで主に起用されているのは、酒井宣福、和泉竜司、貴田遼河、長澤和輝、甲田英將だが、生粋のドリブラーは甲田のみ。ゴリゴリの突破が魅力のターレスも控えているとはいえ、甲田含め成長過程にある。

マテウス&永井への依存度の高さをどのように軽減するか、という点が13年ぶりのリーグ制覇とカップ戦(ルヴァンカップおよび天皇杯)でのタイトル獲得に直結するだろう。現状で考えられる解決策は、森下龍矢のシャドー起用だ。

今季ここまで左右のウィングバックで出場してきた森下は、持ち味の推進力を随所で見せている。特に左サイドで起用された際の仕掛けとカットインからのシュートは光るものがあり、第10節の横浜F・マリノス戦では得意の形からミドルシュートを決めている。

今季リーグ戦2ゴールを記録している背番号17を、後半途中から一列前のシャドーで起用し、その攻撃性能を存分に発揮させたい。この場合、ウィングバックに和泉竜司(そのまま左サイドに)または野上結貴(右サイドに入れて、内田宅哉を左に回す)を配すれば、不足はないだろう。甲田をウィングバックで本格的に育成するプランも検討に値する。

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豊富な指導キャリアと実績を誇る長谷川健太監督が、今後どのような解決策を示すのか。3バックはそのままに、中盤3センターおよび2トップを採用し、ヒトではなくシステムで解決を試みる形も考えられるが、果たして——。

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