相川七瀬の学び直し「授業はライブ。一番前のSS席でかじりついてます」

学期末はテスト勉強や、学術書・論文を読みレポートを作成するなどで大忙しだという相川七瀬

’22年10月、岸田政権がリスキリング(学び直し)支援に5年間で1兆円を投入することを表明。興味はあるものの、ハードルの高さも感じている人のために、リカレント教育を経験した先輩たちの経験談をお届けします。

「祖父が神社の氏子総代を昔つとめていたということもあるのか、私はかねてより祭祀について興味がありました。そこで、’16年から國學院大学の科目等履修生制度を利用して、お祭りや神道や経済に関する授業を受講することに。社会人に対して開かれたクラスで授業を受けていくなかで、もっと専門的に学んでみたいなと次第に思うようになっていったんです」

そう笑う相川七瀬さん(48)の学び直しは約7年前に始まった。知的好奇心旺盛な相川さんは、自分でいろいろと調べて、まずは大学の科目等履修生となる道を選んだという。

「だいたいどの大学でも、科目等履修生制度があるんですよ。受けるのは1つの授業だけでもOK。自分の興味のあることだけをピックアップできるし、1科目あたり1万円前後と比較的リーズナブルなので、社会人でも無理なく学べます。私も最初はそれで十分だと思っていたのですが、同じ授業を受けている大学生たちが羨ましく思えてきてしまって……」

そこで、大学で本格的に学びたいと強く思うに至った相川さん。しかし、10代から本格的な歌手活動を始めていたために、高校を中退していたという。改めて、大学受験をするには、高等学校卒業程度認定試験(高卒認定試験)を受けねばならなくなった。

「もともと、20代のころから高卒認定試験を受けたいとは思っていたんです。ただ、勇気も出なかったし、勉強に費やす時間もなかった。歌手活動と並行して26歳で結婚・出産をして、3人の子育てをしていくなかで、子どもたちが学んだことをどんどん吸収してアップデートしていく姿を見て、『子どもたちにできるのなら、私にもできるかも』と思うようになったんです」

ちょうどニュージーランドに留学していた長男が日本に帰国し、日本の高卒認定試験を受ける’17年のタイミングで、一緒に勉強をスタートしたという。

高卒認定試験は全部で8~10科目に合格しなければならない。一気にやると絶対にやめたくなると思った相川さんは、最初に国語、英語、数学の必修3科目と、理科(生物)を受け、数学以外の3科目に合格した。家庭教師をつけて、その翌年の’19年には残りの科目も見事合格した。

「私の生活スタイルとして、塾に行くとなると、家事や育児をする時間とかぶってしまいます。だから、私は朝から家庭教師に来てもらって、子どもたちが学校に行っているときに勉強することにしました」

■高卒認定試験をクリアし、長男の友達と同級生に

高卒認定試験をクリアした後、1年間大学受験のための勉強をして、’20年には晴れて大学生となった相川さん。いろいろな大学の選択肢のなかで、観光や街づくりに特化した学部を持っている大学も検討したが、「神事を中心としてなぜ人は集っていくのか」ということに興味があったため、根本的なことを学ぼうと、最終的に國學院大学を選んだ。

「長男は学年を1年下げて、ニュージーランドにいたので、今の学年は長男が1つ下になるのですが、日本にいる長男の友達と私は同じ学年の同級生なんです(笑)」

相川さんが國學院大学に入学した’20年度はコロナ禍が始まった年。入学式もなく、キャンパスにも入れず、すべての授業がオンライン。本来のキャンパスライフではなかったが、ロケなどの仕事が入ってもオンラインの恩恵を受けて授業が受けられて、1年生で取るべき単位はすべて取れたという。

「’21年度からは、基本的な英語のクラスや一部の授業が対面になり、’22年度はほぼ対面授業が再開。昨年度は実際にキャンパスに行っていたので、やっぱり大変でした。ただ、自分の求める資料がすべて大学の図書館にあるので、大学にいること自体、結構好きですね」

國學院大学神道文化学部は、卒業後に神職に就く学生が多いという。相川さんは神職課程は取らず、神社やお祭り、日本の歴史や古典などを学んでいる。

「私は観光や街づくりに興味があり、最終的には、そこに根づいた文化をどのように地域に生かしていくかということを実践したい。今はその文化がどのように発展してきたのかを学んでいる最中です」

所属するゼミはディスカッションが盛んで、若い同級生や先輩から質問攻めにあうことも。うまく対応できなかったときには、渋谷でビールを飲むか、大好きなパフェを食べて帰宅するそう。なかなかできない初めての経験に衝撃を受けたが、いくつになっても成長はできるし、初心を忘れてはいけない。大学で経験するすべてのことが勉強になっているという。

「大学に入ってビックリしたことは、誰も何も教えてくれないってこと。自分で情報を取りに行かないといけないんです。わからないことは全部周りに聞いて、自分で解決しなくてはいけない。だから、授業のとき、私はいちばん前の席にいて、わからないことがあれば、小さな疑問でもすぐ目の前の教授に聞いたり、質問するようにしています。ライブでアリーナ席のチケットを買うように、授業でも私はアリーナ席のSS席にいるようにしているんです(笑)」

仕事や家庭に使うべき自分の時間を無理やり削って学んでいるため、何としてでも学問への理解を深めたいと意欲的な相川さん。そうして教授ともコミュニケーションを取っていると、「そういえば、前にこんなこと言ってたよね」と気にかけてくれて、本や資料を貸してくれたりもするとか。

■人間関係の輪がたくさんあることで人生は豊かになる

「学びの魅力は、自分の今の人間関係とは違う人間関係を新たに構築できることもあると思うんです。私は年の離れた同級生たちとご飯や飲みに行って、彼らのたわいのない話を聞きますが、学びを通して自分とは違う人たちと出会えることは醍醐味のひとつですよね。違う人間関係を通して、今の自分が知らない自分も見つけられる。人間関係の輪がたくさんあると、人生を豊かにしてくれますよね」

そうしたパワフルママの姿は、3人の子どもたちにもいい影響を与えているようだ。

「いつも子どもたちは『大人になったら勉強しなくていいと思っていたけれど、勉強って終わらないんだね』と言うんです。いくつになっても、新しいことを始めるときは勉強の連続だということを私の学ぶ姿を見て、子どもたちには伝えられているのかな」

【PROFILE】

あいかわななせ

’75年、大阪府生まれ。’95年『夢見る少女じゃいられない』で歌手デビュー。現在も精力的にライブ活動を行う。

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