中国拘束の実態記録 スパイ罪で不当判決/居住監視「人権なし」 茨城・桜川出身 鈴木さん出版

中国で6年に及んだ拘束生活を振り返る鈴木英司さん=筑西市内

スパイ活動をしたとして2016年に中国当局に拘束され、懲役6年の実刑判決を受けた茨城県桜川市出身の元日中青年交流協会理事長、鈴木英司さん(66)が、自身の体験を著書にまとめた。正式逮捕前に24時間の監視下で取り調べを受けた「居住監視」に始まり、昨年10月に刑期を終えて帰国するまでの拘束生活を記録。鈴木さんは「私と同様の人たちを生まないため、将来の中国の人権を考える上でも重要」としている。

著書は「中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録」(毎日新聞出版)。

鈴木さんは同県立下館一高時代、旧下館市内で開かれた物産展などをきっかけに中国に憧れを抱いた。全農林労働組合の書記局員や社会党の衆院議員秘書を務めた後、中国の大学で日本政治などを教えた。日中青年交流協会の設立にも携わり、訪中歴は200回を超える。

▼連行

「親中派」の鈴木さんだったが、16年7月、中国から帰国寸前の空港で「北京市国家安全局」を名乗る男たちにスパイ容疑で突如拘束された。アイマスクをされた状態で施設に連行され、そのまま居住監視に置かれた。

部屋の四隅には監視カメラがあり、監視員2人が常駐。カーテンは締め切られ、約7カ月間の居住監視で太陽を目にしたのはわずか一度、15分だけだったという。

鈴木さんの身柄拘束を受け、菅義偉官房長官(当時)は同月28日の記者会見で「日本政府はいかなる国に対しても、そうした活動に従事していない」と、鈴木さんがスパイ行為に関与した可能性を否定した。

「弁護士にも会えない。大使館員だって好きな時に会えない。手紙も書けない。人間の権利は何もない。人権以前の問題だった」。鈴木さんは、当時の様子をそう振り返る。

取り調べで容疑を否認し続けたが、17年2月に正式逮捕、同5月に起訴された。罪状は、13年2月に在日中国大使館の元公使参事官から中朝関係の情報を聞き取り、日本政府関係者に提供した、というものだった。

鈴木さんは元公使参事官と会食した際、北朝鮮問題が話題になったことがあったが、ニュースで見た公開情報に過ぎず、「なぜこれが秘密なんだ」と語気を強める。裁判は全て非公開で行われ、20年11月にスパイ罪で懲役6年の実刑判決が確定。鈴木さんは、未決勾留日数を差し引いた1年11カ月を刑務所で過ごした。

▼帰国

昨年10月に刑期を終えて帰国し、桜川市内の実家で家族と再会した。「筑波山が見えた時は、やはりうれしかった」と目を潤ませる。拘束当時96キロあった体重は68キロまで減ったという。現在は県内に居住する。

鈴木さんの帰国後も、中国で日本人が拘束される事案が発生。今年3月には、アステラス製薬現地法人の日本人幹部がスパイ容疑で拘束されており、居住監視の状態にあるとみられる。

鈴木さんは、正式逮捕前に日本政府が釈放を中国側に求めることが重要と強調し、「国がどう動かなければならないのかを含めて、国民の皆さんに考えてもらいたい」と話した。

同書は四六判、216ページ。1760円。

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