<ライブレポート>sumika 雨天決行の横浜スタジアムで刻んだ4人の軌跡、誓った「やめない」決意

sumikaが、5月14日に【sumika 10th Anniversary Live『Ten to Ten to 10』】を神奈川・横浜スタジアムにて開催した。

5月17日に迎えるバンド結成10周年を目前に、これまでの活動のひとつの集大成として、昨年22年11月から予定されていた同公演。この前哨戦となる結成10周年記念の全国ホールツアー、その直後の黒田隼之介(Gt. / Cho.)急逝というショッキングなニュースを経て、会場に集まった33000人、そしてステージ上のメンバーも、きっと簡単には言い表せない思いを抱えてこの横浜スタジアムに集まっていたことだと思う。集まったその気持ちを包み込み、そしてsumikaのこの先への希望をともすような、濃密さとあたたかさに満ちたメモリアルなライブとなった。

当日、横浜スタジアムはあいにくの雨模様。完全屋外となる座席を、レインポンチョの上からグッズのタオルを掛けた観客がどんどん埋めていく。そしてSEが鳴り止み、バンドの10年間を振り返っていくオープニングムービーが流れると、片岡健太(Vo. / Gt.)、荒井智之(Dr. / Cho.)、小川貴之(Key. / Cho.)の3人がステージに登場。客席に向かって深々とお辞儀をし、片岡が「ワン、ツー!」と叫ぶと、「雨天決行」がスタートした。この曲がsumikaとして初めて作られた、まさにバンドの幕開けの楽曲であったことだけでも十分だが、タイトル通り「雨天決行」となったこのシチュエーションがよりエモーショナルさを盛り立てる。さらに、ステージ前方モニターには、メンバー3人、そしてステージ上手に置かれた黒田のレスポールが4分割で映し出され、彼の鳴らすギターの音が会場に響く。“4人”の音を浴びるなかで、何度も繰り返される<やめない やめないんだよ まだ>というフレーズがとても頼もしく聴こえてきた。

胸が詰まる思いでステージを見つめていると、片岡が「ただいまー! そして、お帰りなさい! sumika、はりきって始めます!」と明るく叫び、流れ出したのは「Lovers」。ゲストミュージシャンもステージに姿を現し、カラフルな照明も灯って一気に場を陽のムードに切り替えると、そのまま「フィクション」とキラーチューンを畳み掛けた。「ふっかつのじゅもん」ではステージ前方に炎が燃え盛り、重い4つ打ちビートに会場ごと揺れるなか、コール&レスポンスで会場の熱気が上がっていく。そして曲中、なんと片岡が黒田の(ストラップ短めの)レスポールを手に取り、ギターソロを披露。このサプライズには会場からも悲鳴に近い歓声が上がった。

ひと息つき、「改めまして……おはこんばんにちはsumikaです! ハマスタの皆さんご機嫌いかがですか!」と片岡が会場に呼びかけると、客席からは大きな声で返事が返る。「10周年を迎えるタイミングで、めちゃくちゃ悲しいことが、想像もしなかったことが起きました。なんだけど、今日はじゅんの代わりをやろうとか、そういう気持ちは一切捨てようと思います。1曲やってみて気づいた、ギターが難しすぎる。そりゃあのポジションになるわ」と、会場の笑いを誘う。「あんなすごいギタリスト、ミュージシャンの代わりなんて、できるわけないじゃん。だからやめるよ。今日はスタッフチームの力を借りてじゅんの音を流そうと思ってるし。でもね、悲しい空白じゃなくてさ、ポジティブなクエスチョンに変えてさ、そこはミュージシャンらしく、グッとくる音楽作ろうと思ってるよ」と告げ、「忘れちゃいけないのは、今日ここに集まってくれたあなたの拍手や歓声、歌声もライブでは大事な音楽だと思ってるんですけど、いかがですか!?」「伝説作っていきましょう!」と観客を鼓舞した。

ジャンプする観客の姿に、片岡も思わず「楽しい!」と声をこぼした「1.2.3..4.5.6」、荒井のジャジーなフィルに「ドラムすごすぎて入れなかった」と片岡が落ちサビを歌い損ね(!)まさかのTake2で笑いが起こった「ソーダ」、ライブアレンジで加わったシンセのピコピコした音がかわいい「Porter」、片岡もセンターステージに通じる花道に飛び出し歌った「惰星のマーチ」と続いたあとは、ハマスタ公演への感想を語るコーナーへ。バンドのキャプテン・荒井は「すごい規模感。いまだに夢のよう」と彼らしい軽妙な語り口で、sumikaメンバーの中でもいちばん地元が近所という小川は「高校生のとき、ここの近くで路上ライブをしてました。この景色、びっくりですよほんとに!」と、初めて立つこの地への思いを明かした。

軽快なドラムビートを挟み、始まったのは「イコール」。TVアニメ『MIX』オープニング・テーマということもあり、球場でもある広々とした横浜スタジアムのロケーションが最高に映える爽やかさだ。落ちサビの〈雨のち晴れのち雨だって〉というフレーズでは片岡も空に手を伸ばし、降り止まない雨も演出のひとつに昇華してみせた。スパッと突き抜けるような、片岡とは違う魅力の歌声を持つ小川がメインボーカルを務める「enn」「わすれもの」を連続で披露したあとは、雰囲気を一転させ、毒っ気のあるリリックの「New World」「Strawberry Fields」、アンニュイな中に切なさが滲む「No.5」を繰り出す。そして小川のピアノとストリングスが神聖な雰囲気を醸し出した「秘密」では、片岡もスタンドマイクに手を置き、時にそっとマイクに言葉を吹き込むように、時に口をいっぱいに開け、叫ぶように歌う。まっすぐなラブソング「透明」では前方モニターに歌詞が映し出され、歌われる愛ーーここでは集まったファンに向けて届けられたそれに、やさしく包まれるような気持ちになった。

(片岡のトイレ休憩を兼ねた)センターステージへの転換タイムを挟むと、アコースティック編成“sumika[camp session]”のコーナーへ。ステージの真ん中には焚き火が燃え、それを囲むようにスタンバイするバンドメンバーの姿が、まさに[camp session]という雰囲気だ。降り止まない雨を「これで傘ささずに音楽できるなんて最高だよ!」「悪いことしてるみたい(笑)」とポジティブに笑い飛ばし、「知らない誰か」「ユートピア」「Traveling」と続ける。しかし、強まる雨足に中断を余儀なくされてしまい、急遽メインステージに戻ることに。「みんなは開演からこれ(雨)受け続けてきたんでしょ。かっこいいよな~!」と観客をねぎらいつつ、予定になかったという一曲「ここから見える景色」を披露。久しぶりのライブ披露となった同曲に、会場からは喜びと驚きの悲鳴が上がる。そして、“大事な楽曲”「IN THE FLIGHT」を、初公開のミュージックビデオをモニターに映しながら演奏し、コーナーを締めくくった。

ここで、荒井とゲストメンバーがいったん下がり、ステージ上には片岡と小川のふたりが残る。「おがりん(小川)が加入してくれた時にも、ふたりでやったね」と思い出話に花を咲かせつつ、「溶けた体温、蕩けた魔法」がスタートした。片岡はハンドマイクを手に取り、小川のピアノのみの静かなアレンジが心地いい。曲終わりには、ふたりががっちりと握手を交わす一幕も。

荒井らメンバーが戻ってくると、ここからはまたアッパーチューンを畳み掛けてくる。大きなバルーンがアリーナを転がり、客席にバズーカまで打ち込まれた「絶叫セレナーデ」、ビビッドなステージライトがきらめく「Flower」、めっきり冷え込む気温を吹き飛ばすように、タオルを振り回し踊りまくった夏曲「マイリッチサマーブルース」と重なると、「やりたい曲多すぎるからさ、ちょっとずつでもいっぱいやってっていいですか!?」とメドレーになだれ込む。「The Flag Song」で炎とともに情熱的なスタートを切ると、「チェスターコパーポット」「KOKYU」「ライラ」「Jasmine」「Late Show」「Lamp」の計7曲をワンコーラスずつ繋げ、最後は観客と<Hey!>と掛け声を揃えてみせた。

一度ステージが暗転すると、静かになったスタジアムに<夜を越えて/闇を抜けて/迎えにゆこう>と「ファンファーレ」の歌い出しが響き渡る。視界いっぱいが真っ青に染まるステージがとことん爽やかだ。すっかり陽が落ちたなか、sumikaの立つステージが眩しくきらめいていた。

少し間を開けて、「奇跡みたいな夜だね!」と興奮ぎみに片岡が呼びかける。「正直、予定してたことと全然違うんだけど(笑)、それでもさ、いい意味で奇跡みたいな夜になったのは、どう考えてもあなたのおかげです。めちゃくちゃいい表情と音を聴かせてくれて、俺は今日、寂しくない。すごいなあ」とつぶやく声に、思わず観客も息をのむ。「5月17日で結成10周年を迎えます。正直こんな気持ちで10年目を迎えると思っていなかったけど、こんなおかげで、俺は気づけたことがあります。10年前はただ歌が歌いたくて、バンドがやりたくて、作った曲を聴いてほしくて、軽音楽部の延長線上を続けたくて、バンドを始めました。だけど今は違います。俺はsumikaの曲を歌いたいというのと同じくらい、俺はsumikaの音楽が聴きたいです。俺は10年かけて、どうやらsumikaというバンドのファンになってしまったみたいです」「だから、めちゃくちゃ辛いことがあったときにさ、歌を続けたいって気持ちよりも、俺はsumikaの曲が聴けなくなるのが嫌だったんだよね。作ってた曲を悲しい気持ちで塗り替えて、俺の大好きなバンドの記憶が途切れてしまうのだけは、絶対に避けたかったです」「だから俺は、ともくんが作った曲も聴くし、おがりんが作った曲も聴くし、隼之介が作った曲も聴く。俺が作った曲も聴く。ゲストメンバーが作ってくれた曲、スタッフチームが手伝ってくれた曲……愛おしく、聴いています。その日々をまだ、俺は続けていきたい」「そして願わくば、俺がファンになったsumikaというバンドは、売れるか売れないかはさっぱりわからないけれども、メンバーが命を燃やして作ったんだなという曲だけは世の中に残していってほしい。そして、33,000人だろうが、3人だろうが関係なく、目の前のあなたに向けて、1対1で命を燃やし尽くしてライブをやれるバンドであってほしい」「sumikaっていうバンドのファンで本当によかったな、と思って人生を終えたい。俺たちはまだ、まだまだ、sumikaを続けます! 今日来てくれたあなたと同じ気持ちで、裏切らない気持ちで、俺はファンで居続けます」ときっぱり宣言した姿に、客席から割れんばかりの拍手が返った。

ステージが、いっそう強く降り注ぐ雨粒で白みがかって見える。そんななかで流れ出したのは「明日晴れるさ」。黒田の人柄が滲むようなあたたかい歌詞とメロディに包まれていると、ラストにはステージが虹色に光る。降りしきる雨の向こうに輝くその光に、なんだかとても、救われたような気持ちになった。

空気を変え、片岡が「明るくブチ上げていくぞー!」と煽ると、「Shake & Shake」(各ワードの間に半角スペースお願いします。)では大きなコール&レスポンスが巻き起こる。そして「あなたに会えてめちゃくちゃ嬉しかった。俺たちと出会ってくれてありがとう!」と告げ、本編最後の曲「オレンジ」がスタート。ステージ上方にかかっていた虹色のライトが、曲が始まると同時に一気にオレンジ色に染まるさまが美しい。終盤、観客が歌う「ラララ」のハミングに、「いい声だ!」「ありがとう」と声をかける片岡の声がやさしく響いた。

アンコールの最初を飾ったのは、最新曲「Starting Over」。ラストサビ前にはセット背後から(雨にも関わらず!)カラフルな打ち上げ花火が高く上がり、その美しさに目を奪われる。続いた「願い」では、靄のように広がった雨粒でより淡く広がる光に包まれる3人の姿が幻想的だった。

そして、MCもいよいよライブを締めくくる挨拶に。小川は「sumikaのメンバーとして、ひとりの音楽家として、やること全てをここに目がけて準備してきました。全部を今日にぶつけてきました。綺麗事ではなく、今日目の前にある景色っていうのは、本当に奇跡のような宝物です。今のsumikaにとって、僕にとって、とてつもないギフトです。改めて今日はありがとうございます」「そして……愛してます。こっぱずかしいけど今日くらいは言わせてよ。目の前のこの景色を作ったあなた一人ひとり、いつだってsumikaの音楽、sumikaのやりたいことを、全国にどこまでも届けてくれるスタッフチーム、ピンチの時に、すぐに駆けつけてくれるゲストミュージシャンみんな。そして何より……メンバーを愛しています。ともに人生を生きられて本当に嬉しいです。まだまだやりたい、表現したいことがある。そして何よりも、僕はsumikaでいい音楽を、もっと残していきたい。あなたの人生に、sumikaの音楽を突き刺していきたい」そしてうっすらと涙を浮かべ、「悲しいから泣いてるんじゃないんだ! 未来が楽しみで泣いてるんです」「まだまだ俺たちはやれる。sumikaはどんどん続いていきます! 何があったって、続ける選択をしていくと思う。どうか、これからもsumikaを愛してください。これからもよろしくお願いします」と力強く語る。

荒井は「みなさん調子どうよ~!」とまずは客席に明るく呼びかけると、「本当に衝撃的な、悲しいできごとがあって……なんかね、この10年悲しいことばっかりなんじゃねえかなと思ったりしてさ、もう立ち上がれないんじゃねえかみたいな気分になったり。でも、やっぱりこの10年間は悲しいことばっかりじゃなくて、すごく楽しいこともあったし、すっごい幸せなこともあったのよ。そして今日、こんな大きいところでライブやってさ、みんなの顔がよく見えた。本当に楽しそうな顔だったり、ちょっとうるっとした顔だったり、いろんな感情を素直に見せてくれてるなと思って。それはそれだけ、俺たちsumikaのことを信頼してくれてるんだなと思って、その絆こそが、この10年間sumikaとして歩いてきて俺たちが得た、そして何があっても無くすことのない大事な宝物だと思った。本当にありがとな!」と、素直な気持ちを語る。「どんな悲しいことがあっても、俺は音楽をやりたいと思ったし、バンドを続けたいと思ったし、sumikaとして生きていきたいって思った。それは俺自身が、やっぱり何があっても笑いたいからだし、俺の大事な人にも笑っていてほしいと思ったから。泣くために、悲しむために生きるなんて、やっぱ辛いなあって」「俺は生きるなら楽しいこといっぱいしたいけど、それはひとりじゃ物足りない。メンバーやスタッフ、そしてお前らといっしょに笑えたら、すっげえ楽しいな」「お前らの人生、もっと悲しいこととかもっと辛いこともあると思うんだよ。そんな時は俺たちのことを思い出してくれ。そしてsumikaの音楽を聴いてくれ。そしていつでも、ここに帰ってきてくれ。俺たちは最高に幸せな時も、絶望的に悲しい時間もどっちも味わって、それでもなお笑っていこうって、笑わせようって決めたから。ここに帰ってきてくれれば、俺たちがいつでもお前らを笑顔にする。俺たちの“sumika”でまた会おうぜ!」そして、先の10周年記念ツアーでも同じく熱いMCをしていたことについて触れ「ライブ終わって楽屋帰ってきたら、うちのじゅんちゃんがすげえ笑顔で『一生ついていきたくなりました』とか言ってくれて。その時はテンション普通になってて『じゅんちゃんありがとね~』とか言っちゃったんだけど……」と黒田との思い出を明かしつつ、「あの時じゅんちゃんに伝えるべきだった言葉、全員にまとめて最後に言わせてくれ。お前ら……一生ついてこいよー!」と、キャプテンの肩書きにふさわしい頼もしい言葉で締めた。

ライブ定番曲「「伝言歌」」では、直前に片岡が呼びかけた「横浜スタジアムに語り継がれるほどの大きな歌声を聴かせてほしい!」との言葉のおかげか、ライブ恒例のシンガロングがひと際大きく響く。それを満足そうに笑って見つめ、「どでかい音、空にも届くはずだからさ! 聴かせてくれ!」と片岡が叫んだ時の、泣き出す寸前にすら聞こえる声が今も耳に焼き付いている。曲を締めくくるフレーズ<あなたに最後に今、投げかける/「伝言歌」よ>が、モニターには「最期」と映し出されていたのには、ぎゅっと胸が締め付けられた。

その余韻のまま「雨天決行」をBGMにエンディングムービーを終えると、センターステージにふたたび3人が登場。円を描くように向かい合い、今度は3人だけの音で「雨天決行 -第二楽章-」がスタートした。そこに観客の歌声が加わり、最後はゲストメンバーも加わっていく。これからのsumikaの音を体現するようなステージだと思った。熱いメッセージを込めたアドリブも交え、曲を終えると片岡は「やれてよかった!」とシャウト。客席をまっすぐ見つめ、「やっぱり、やっぱり必ず、幸せにします」と約束。「最高。バンド組んでよかった。sumikaでよかった。本当ありがとう。sumikaでした!」と挨拶し、大団円でライブの幕を下ろした。

公演はトータル4時間。数字だけ見るとびっくりしてしまうが、実際のセットリストや演出、彼らの言葉をこうやって思い出して噛み締めてみると、このボリュームは必然だったのだと思う。sumikaは間違いなく、この横浜スタジアムで“4人”の姿をしっかりと刻みつけ、“3人”のこれからを約束してくれた。彼らの10年の軌跡を浴びるように感じ、そしてこの先が心から楽しみになる、本当にあたたかく希望に満ちたライブだった。どうか、これからのsumikaが歩む先に、きれいな虹がかかり続けていますように。

Text by Maiko Murata
Photo by Sotaro Goto / Tetsuya Yamakawa / Takeshi Yao

◎公演情報
【sumika 10th Anniversary Live『Ten to Ten to 10』】
2023年5月14日(日) 神奈川・横浜スタジアム

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