社説:広島サミット 被爆地から核廃絶の道開け

 核の脅威が人類を分断する今だからこそ、被爆地に立った政治リーダーが核の廃絶を目指すことで歩調を合わせ、前へ進む機会にするべきだ。

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)が広島で開幕した。

 ロシアの非道なウクライナ侵略や、中国の覇権主義的な行動が欧米諸国との対立を深め、世界経済も痛撃している。

 そんな中、唯一の戦争被爆国日本が、初めて惨禍の現場にG7首脳を集めた。歴史的に意義ある会合するには、現状追認にとどまらず、困難な中でも核廃絶に向けた道筋を打ち出さねばならない。議長を務める岸田文雄首相の真価が問われよう。

 広島選出の岸田氏は毎年8月6日前後、祖母の膝元で原爆投下による「リアルな死」を聞いたのが原体験という。きのう原爆ドームがある広島市の平和記念公園でG7首脳を出迎えた。

 首脳らは核兵器のむごさを伝える平和記念資料館を訪れ、被爆者の声も聞き、78年前の大量殺りくの実態に触れた。この共通体験を核不使用への決意はもとより、核軍縮から核廃絶へとつなげてもらいたい。

 だが、人類共通の目標であるはずの「核なき世界」は遠のく一方にみえる。ロシアによる核使用の威嚇、中国の核大国化、北朝鮮の核武装など冷戦後最悪とされる現実につられ、G7は核戦力で攻撃を思いとどまらせる「核抑止」に傾斜する。日本は足元で、防衛費「倍増」や専守防衛の実質転換を進める。

 この先に待ち受けるのは歴史を逆戻りする軍拡競争であり、保有国が広がる核ドミノ、核戦争のリスクではないか。

 米ロ中英仏に核保有を認める代わりに核軍縮の義務を定めた核拡散防止条約(NPT、1970年発効)は事実上、機能不全に陥っている。危機感を強める非保有の68カ国・地域が、批准した核兵器禁止条約(2021年発効)との溝は深まる。

 米の核の傘(拡大抑止)に頼る日本は、核禁条約には背を向けたままである。ドイツのようにせめてオブザーバー参加をと求める広島、長崎の被爆者の声も届かない。「橋渡し役」を自任する岸田氏は、軸足を核禁条約に伸ばす時ではないか。

 開幕前の日米首脳会談や初日の会合で、ロシア制裁とウクライナ支援の強化を確認した。来日予定のゼレンスキー大統領と結束し、侵略を止めたい。

 岸田氏が提唱する核軍縮に向けた「ヒロシマ・アクション・プラン」も議論した。あすの首脳声明で、踏み込んだメッセージを出せるかが焦点だ。

 サミットにはインド、ブラジル、豪州、韓国など8カ国も招いた。中ロとの関係維持を望む新興国・途上国との連携強化は、G7だけではなしえない。気候変動や生成AI(人工知能)への対応などでも実効性のある具体策を盛り込みたい。

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