揺れる珠洲で新たな命 市総合病院で15日出産

律斗ちゃんの誕生を喜ぶ曽良尚子さん(右)と夫の歩夢さん(左)ら家族=能登町瑞穂

  ●能登町の曽良さん「無事生まれてほっとした」

 5日に震度6強の揺れに見舞われ、その後も余震が続く珠洲市で、新たな命が生まれた。両親は「無事に出産できるのか」と不安に駆られたが、助産師らの手厚いサポートを受けて15日に無事出産、20日に母子ともに元気に退院した。過疎や少子高齢化が進み、天災にも見舞われた奥能登で誕生した赤ちゃんに、両親は「すくすく元気に育ってほしい」と願った。

  ●助産師手厚く

 「小さくてかわいい」「目開けたよ」。珠洲市総合病院で15日に出産した曽良尚子さん(29)=能登町小木=と夫の歩夢(あゆむ)さん(30)が20日、生後5日の長男律斗(りつ)ちゃんを連れて、能登町瑞穂の実家に帰ると、家族が律斗ちゃんに優しいまなざしを向けた。

 尚子さんは長女侑愛(ゆうあ)ちゃん(4)、次女侑衣里(ゆいり)ちゃん(2)を珠洲市総合病院で産んでおり、3人目も同病院で助産師の支援を受ける「院内助産」で出産の準備をしていた。

 尚子さんは5日、能登町の実家で震度5弱の激しい揺れに襲われた。幸いけがはなかったが、歩夢さんから珠洲での出産を心配された。珠洲市総合病院には産婦人科医が常駐しておらず、近年出産するのは10人前後。その上、出産中に強い揺れに襲われると危ないと考えたからだ。

 尚子さんは、地震が起きた5日のうちに助産師から掛かってきた電話で「病院で問題なく出産できる」と聞いた。その後の健診でも助産師らと接して安心できたため、予定通り珠洲での出産を選んだ。

 とはいえ、尚子さんにまったく不安がなかったわけではない。大きな揺れのあった5日以降は、おなかの赤ちゃんを守ろうと、余震情報を確認するためにスマホが手放せなくなった。

 14日夜に陣痛が起き、歩夢さんが運転する車で能登町の自宅から珠洲市総合病院に向かい、15日午前0時過ぎに到着。同2時過ぎに律斗ちゃんが産声を上げた。

 歩夢さんは、律斗ちゃんの「律」という字には人として進むべき正しい道という意味があるとして、「真っすぐに成長してほしい。大きくなったら、大きな地震の後に生まれた状況を伝えたい」と話した。尚子さんは「余震が続く中、無事に生まれてほっとした」と笑顔を見せた。

  ●負傷者新たに1人

 石川県は20日、珠洲市を襲った震度6強の地震で軽傷者が新たに1人確認され、累計は45人になったと発表した。住宅の全壊は1棟増の19棟、半壊は12棟増の51棟となった。

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