乗り越えた惜敗と故障 ケプカには「LIV初メジャーV」よりも大切なものがある

勝利を決めて右こぶしを握ったブルックス・ケプカ(Maddie Meyer/PGA of America)

◇メジャー第2戦◇全米プロゴルフ選手権 最終日(21日)◇オークヒルCC(ニューヨーク州)◇7394yd(パー70)

勝利を確信して18番を歩いたブルックス・ケプカは感傷に浸っていた。「ここまで成し遂げてきたことを考えていた。汚い言葉で悪いけれど、僕はクソみたいなことを経験した。誰も知らないけれど、痛くて、ひざすら曲げられなかった」。2019年大会を最後に、遠ざかっていた5つ目のメジャータイトル。再び手に入れるきょうまでには長い道のりがあった。

首位で日曜日を迎えたのは1カ月ぶりだった。4月の「マスターズ」、連日の順延で30ホールを戦った最終日にジョン・ラーム(スペイン)に逆転負けした。眠れぬ夜を過ごし「あれがなければ、間違いなくきょう勝つことはなかった」という。前半2番からの3連続バーで集団を抜け出しても、気が緩むはずはない。

中盤からは同じ最終組のビクトル・ホブラン(ノルウェー)とのマッチレースとなった。勝負所は1打差をつけて迎えた後半16番。相手の2打目がフェアウェイバンカー付近のラフに埋まってダブルボギーを叩いたホールで、ラフからピンそば1mにつけるショットを見せた。下りのラインを強気に沈めてバーディ。4打差にして勝負を決めた。

ホブランらを振り切り大会3勝目を飾った(Andy Lyons/Getty Images)

初日「72」のオーバーパー発進から、残り3日でアンダーパーを並べて通算9アンダー。2021年までに8勝を挙げたPGAツアーから昨年、「LIVゴルフ」に電撃移籍した。新リーグ所属選手による初のメジャー優勝。「もちろんLIVにとって大きなこと。だが同時に僕は全米プロを個人で戦った。ただ3回目の優勝がうれしい」と仲間意識は別にある。

3年以上に及ぶ故障との闘いは孤独だった。「真実を知る人は5、6人しかいない。寒い日は地獄だった」。実際にひざの腫れが引いたのは「2、3カ月前」。苦境で何度も立ち上がってきた。メジャー5勝は、メジャーでの惜敗があってこそ積み上げたと明かす。「優勝したときより、2位になった4回からの方が学ぶものは多い。人は失敗から学ぶ。大事なのは気持ちを開いて、自分に正直であること。そうできれば、誰でも何マイルも進める」

10年前、ケプカが初めて全米プロに出場したのがここオークヒルCCだった。当時タイガー・ウッズと一緒に回った記憶は今も鮮明。「その時が一番、勉強になった。9ホールずっと彼を見ていた。僕はタイガーの時代を生きている。キャディには『もう彼を見るのはやめろ』と言われたけど」。1958年に全米プロがストロークプレー方式になってから3勝以上したのはケプカ以外に2人。ジャック・ニクラスとウッズだ。

ホールアウト後、すぐに妻のジェナ・シムズさんに電話をかけた。おなかには第一子がいる。「ここ数年、ずっと父親になりたいと思っていた。本当にうれしい」。いまはあしたが待ち遠しい。(ニューヨーク州ロチェスター/桂川洋一)

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