社説:広島サミット閉幕 核廃絶へ新たな道筋見えぬ

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、成果として首脳声明を発表し、幕を閉じた。ウクライナのゼレンスキー大統領も来日して議論に加わり、世界の耳目を集めた。

 G7首脳たちは広島市の原爆資料館を見学し、被爆者から直接体験談を聞いた。声明で核の惨禍と非人道性に焦点を当て、被爆地からロシアによる核の威嚇と使用に反対を打ち出した意義は小さくない。

 だが、核軍縮への新たな方策は示さず、核廃絶の道筋が開けなかったのは残念である。

 声明では、「核兵器のない世界」を究極の目標とし、「現実的で実践的、責任あるアプローチ」を取るとした。中国を念頭に核戦力のデータ公表などを求める「核軍縮に関する広島ビジョン」も発表した。

 ただ、核軍縮には「安全が損なわれない形で」と条件を付け、中ロに対抗する米英仏の核兵器による抑止力を肯定した。非核保有国60カ国以上が批准する核兵器禁止条約には全く言及していない。こうした国々には、ビジョンはG7の身勝手な論理と映ったのではないか。

 広島の名を冠したにしては実効性が乏しく、岸田文雄首相は「橋渡し役」の任を果たしたとは言いがたい。日本は年末までG7議長国を担う。少しでも具体的な行動につなげる努力が求められよう。

 ロシアの侵略を受けるゼレンスキー大統領は、サミットでG7だけでなく、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国を代表するインドやインドネシアなどと相次ぎ会談した。

 米国のF16戦闘機の供与容認をはじめ、軍事分野を含め「必要とされる限り支援する」とし、ウクライナ支援で結束をアピールした。

 インドなどはロシアとも結びつきが深く、制裁に加わっていない。それだけにゼレンスキー氏が直接、首脳に和平への協力を呼びかけた意味は大きいといえよう。

 G7にとっても今回のサミットで、存在感を高めるグローバルサウスとの連携強化は大きなテーマだった。声明では、食料価格の高騰などの課題に懸念を表明し、「大小さまざまな国の利益のために、自由で開かれた国際秩序を強化する」と目を向けた。

 ロシアへの圧力にとどまらず、気候変動対策や経済安定など新興・途上国の協力なしに前進できない難題は山積する。その声に耳を傾け、一層積極的に関与し続けねばならない。

 サミットでは、軍事的圧力を強める中国に対して、力による現状変更の試みに強く反対してけん制した。一方で、建設的かつ安定的な関係を構築する用意があるとした。

 国際秩序の維持に向け、中国とどう向き合うのか、G7の多層的な外交力が問われる。

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