<社説>子ども政策予算倍増 少子化、早期に歯止めを

 政府は2030年代前半を目標に子ども政策予算を倍増させる。歳出削減や社会保障費への上乗せで財源を確保する考えだ。 もっと急ぐべきではないのか。政治の本気度が問われているのだ。現時点で岸田文雄首相は新たな税負担を否定するが、今後は増税論議が浮上する事態も予想される。その時は当然、国民の信を問う必要がある。

 少子化が加速している。2022年に国内で生まれた赤ちゃんの数(出生数)は初めて80万人台を下回った。17年推計の国の見通しでは80万人割れは33年だった。約10年も早く少子化が進んだ。高齢化も同時に進んでいる。働き手世代は先細り、手厚い保障が必要な高齢層が増えている。労働力や社会保障を支える世代の減少は危機と言える。

 少子化は今に言われたことではない。高齢化と共に課題に挙げられながら、食い止めることができていないのは、政治の責任が大きい。

 1989年の合計特殊出生率が戦後最低となったいわゆる「1.57ショック」を受け政府は94年、エンゼルプランなど施策を始めた。ただ、高齢社会対策などに比べてスピードを欠いた。

 確かに関連予算は徐々に増え、出産や育児を公費で支援する「家族関係社会支出」の国内総生産(GDP)比は89年度の0.36%から2020年度には約2%まで伸びた。

 手厚くはなったようではあるが、出生率の高いスウェーデンは3%を超える。出産、子育てに充てる財源がかつては少なかったのだ。

 政府は30年を少子化対策の分水嶺(ぶんすいれい)とする。これまでの少子化のペースにコロナ禍での婚姻件数の激減もあり、このまま30年代に入ると「少子化はもはや歯止めの利かない状況になる」という。ならば予算確保や施策展開を急ぎ、早期に少子化傾向に歯止めをかけるべきだ。

 子育て政策を手厚くすることには子どものいない人や高齢者の理解を深めることが重要だ。これまでの政治に欠けていたのはそのリーダーシップではないか。「子は社会の宝」との認識が共有できなければ、負担増と反発を招くだけだろう。政権は意を尽くして理解を得る必要がある。

 防衛財源を確保する特別措置法が衆院を通過した。歳出改革や国有財産の売却、東日本大震災の復興財源に充てる所得税を引き下げるなどして防衛財源を捻出する。

 敵基地攻撃能力(反撃能力)の保持によって専守防衛の国是を転換させるのではなく、外交努力で東アジアの緊張緩和を追求することが平和国家のあるべき姿である。

 岸田首相は「次元の異なる」対策を掲げた以上、やみくもな防衛強化の姿勢はあらため、子ども政策に財源を振り向けるべきだ。少子化対策は待ったなしである。子ども予算の捻出に政府は知恵を絞るべきだ。

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