【連載コラム】第13回:昨季王者アストロズの誤算 3年契約で加入も開幕からノーアーチが続くアブレイユ

写真:昨季王者のアストロズを指揮するダスティ・ベイカー監督 @Getty Images

昨季まで6年連続で少なくともリーグ優勝決定シリーズまでコマを進め、昨季は5年ぶり2度目となるワールドシリーズ制覇を果たした王者アストロズがここにきて調子を上げています。5月上旬までなかなか波に乗れず、日本時間5月9日にエンゼルス戦に敗れた時点で17勝18敗と負けが先行していましたが、そこからの12試合で11勝1敗。日本時間5月23日のブリュワーズ戦ではサイ・ヤング賞投手のコービン・バーンズを攻略して大勝を収め、連勝を8に伸ばして地区首位のレンジャーズまで1ゲーム差に迫りました。今季はまだ1度も地区首位に立っていませんが、「定位置」に返り咲くのは時間の問題と言えるでしょう。

今季のアストロズの戦いを支えているのは、メジャートップの防御率3.16を記録している投手力です。オフにジャスティン・バーランダーが去っただけでなく、開幕からランス・マカラーズJr.を欠き、開幕後にもホセ・ウルキディとルイス・ガルシアが離脱するなど、先発陣はかなり苦しい状況ですが、ハンター・ブラウン、ブランドン・ビーラック、J.P.フランスの3人が必死に穴を埋め、先発防御率3.29はメジャー3位と今のところ、大きな弱点にはなっていません。ブルペンはクローザーのライアン・プレスリーとセットアッパーのラファエル・モンテロが安定感を欠いているものの、ヘクター・ネリスが防御率1.33、ブライアン・アブレイユが防御率1.21、フィル・メイトンが防御率0.82と安定感抜群。その結果、救援防御率3.01はメジャー2位の好成績となっています。

写真:昨季に比べ投手力は劣るも先発陣が好成績を残している 左からハンター・ブラウン、ブランドン・ビーラック、J.P.フランス @Getty Images

今季のアストロズがなかなか波に乗れないのは、打線に元気がないことが要因です。OPS.708は30球団中19位に低迷しており、45本塁打は23位、213得点は14位タイと「らしくない」数字が並びます。WBCで骨折したホセ・アルトゥーベを開幕から欠いていたこと、巧打者マイケル・ブラントリーが故障で1試合も出場できていないこと、主力打者の1人であるアレックス・ブレグマンの調子が上がらないことなど、理由はいくつもありますが、アストロズにとっての最大の誤算は3年5850万ドルでFA補強したホセ・アブレイユが極度の打撃不振に陥っていることでしょう。

写真:極度の打撃不振に陥っているホセ・アブレイユ @Getty Images

アブレイユは2020年にMVPを受賞するなど、ホワイトソックスの主砲として活躍してきたスラッガーです。昨季は打球が思うように上がらず、自己最少の15本塁打に終わりましたが、ハードヒット率はメジャー全体の上位5%に入っており、2年ぶり4度目の打率3割をマークしました。アストロズはFAになったユリ・グリエルに代わる正一塁手としてアブレイユを獲得。グリエルの代わりにアブレイユが入ることで打線の大幅なグレードアップになるとみられていましたが、今季ここまで46試合に出場して打率.220、0本塁打、17打点、OPS.541とまさかの大不振に陥っています。

スタットキャストの各種指標を見てみると、打球角度が昨季からさらに低下。打球速度も遅くなり、それに伴ってバレルの打球も激減しています。運が悪いわけではなく、内容そのものが悪い、というのが今季ここまでのアブレイユです。この大不振を受けて、アルトゥーベの代役として打率3割をマークしていたマウリシオ・デュボンを一塁に据えるべきという声が出始めており、アストロズが夏場のトレードで一塁手の補強に動くことを予想するメディアもあります。現在の不振は36歳という年齢からくる衰えなのか、それとも一時的なものなのか。今世紀初となるワールドシリーズ連覇のカギはアブレイユが握っていると言えそうです。 (本文中の情報は日本時間5月23日時点)

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