高速実験炉「常陽」、事実上の合格 2025年3月の再稼働目指す

高速実験炉「常陽」の審査書案を了承した原子力規制委員会=24日、東京都港区

原子力規制委員会は24日、日本原子力研究開発機構の高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町)について、再稼働に向けた安全対策が新規制基準に適合しているとする審査書案を了承し、事実上の合格とした。今後、国民から意見公募などを行った後、正式決定する。機構は2025年3月の運転を目指す。

高速炉は通常の原発と違い、使用済み燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜた「MOX燃料」を使い、発電しながら消費以上のプルトニウムを生み出す。冷却材には、水を使う通常の原発と異なり、燃えやすい性質のナトリウムを使用する。

審査ではナトリウム火災や多量の放射性物質放出、自然災害対策などを議論したほか、現地調査した。杉山智之委員は「常陽は他の試験炉よりも大規模な審査となり、審査水準も発電炉に近い。可燃性の高いナトリウムは特段に配慮した」と述べた。

常陽は国内唯一の高速炉で、廃炉になった高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の前段階に位置付けられる研究施設。発電はしない。機構は25年3月の再稼働を目指しており、高速炉開発や、医療用の放射性同位体の製造で活用する方針。

1977年に国内初の高速炉として運転を開始。実験装置のトラブルで、2007年から運転を停止している。機構は17年、運転再開に向けて規制委に審査を申請したが、運転時の出力の設定を巡り、1年半ほど審査保留となるなど長期化した。規制基準の変更などに伴い、安全対策の総工事費は膨らみ、約207億円を見込む。

常陽の熱出力は本来14万キロワットだが、機構は避難計画を巡る地元対策を簡略化する目的で、設備改造をせずに10万キロワットに抑えて運転する方針だった。だが、規制委が問題視したため、炉心に入れる燃料構成を変えて出力の性能を下げることになった。

■知事「安全確保を」 事前了解で判断 大洗町長も

高速実験炉「常陽」の運転再開の前提となる原子力規制委員会の審査で、事実上の合格となった24日、茨城県の大井川和彦知事と国井豊大洗町長は安全性を確認した上で、再稼働については、安全協定に基づく「事前了解」で判断するとコメントした。

大井川知事は「安全の確保に万全を期すのはもちろん、高速炉開発の意義やその必要性について、国民の理解が得られるよう、国には説明責任を果たしてもらいたい」と注文した。

国井町長は、住民の安全と安心が担保されることを前提に「医療用アイソトープの製造によるがん治療などへの活用も期待されている」として、研究に理解を示した。

今後、県原子力安全対策委員会などで「安全性を確認していく」とする一方、運転再開の是非については触れなかった。大井川知事と国井町長はいずれも、日本原子力研究開発機構との原子力安全協定に基づき、再稼働に必要な安全対策工事の際に、事前了解について判断するとした。

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