「アメリカ、ファーストタイム」兼本貴司は単身でシニアメジャーに

スマホに写真いっぱい(撮影/桂川洋一)

◇シニアメジャー第2戦◇キッチンエイド全米シニアプロ選手権 事前(24日)◇フィールズランチイースト(テキサス州)◇7193yd(パー72)

本当ならもう一生、来ることはないと思っていた。52歳の兼本貴司は初めてのシニアメジャー出場どころか、米国に来たこと自体が初めて。昨年の国内シニアツアーで賞金ランク3位に入って出場権を獲得した今大会。付き添いのスタッフはおらず、スマホに入れた翻訳アプリを頼りに単身で渡米してきた。

レギュラーツアーで2010年までに2勝。前年の「三菱ダイヤモンドカップ」で初優勝を挙げたのはプロ入りから17年後、38歳のときだった。遅咲きのキャリアで「日本でシードを取るのに一生懸命だった。アジアンツアーには行ったことがあるけれど、米国や欧州は縁がないと思っていた」人生は、この齢になって突如一変。シニア参戦2年目の昨年「ノジマチャンピオンシップ箱根シニア」で初優勝を挙げ、とんとん拍子に事が運んだ

日本では他を寄せ付けないロングボールの持ち主(撮影/桂川洋一)

強い日が差し込むテキサス。現地のキャディと懸命にコミュニケーションを取りつつ、練習場ではひとりでスイングチェック。不便なことが多そうで、楽しそうで仕方ない。視界の開けた米国のコースは300yd級の1Wショットを持つ兼本のゴルフを存分に受け入れてくれている。

それでいて高い戦略性に長けた、米国のコースのデザインにうなってばかり。「ロングヒッターにも、そうでない選手にも違う難しさがある。プロにとってはスピンが効いて簡単なフェアウェイバンカーはあえてキレイにされていなくて、ハザードがハザードらしい。ずっと“目からうろこ”」

多くの日本人選手が苦しんできた、国内とは芝質の違うフェアウェイでボールが沈む現象にも好意的。「こっちの芝生はボールが浮かないのがうれしい。浮くとフェースの上に当たってしまうんだ」。ハードヒッターらしい悩みが一瞬で解消されたのにも驚いた。

兼本貴司(右)の打球に一緒に回ったプロもびっくり(撮影/桂川洋一)

開幕前日の練習ラウンドは深堀圭一郎、藤田寛之、宮本勝昌と一緒に回った。レギュラー時代から実力者であり、人気者だった彼らは兼本にとって「雲の上の存在」だと言う。「一緒に回ろうと思ったら、決勝ラウンドで一緒になるしかない。予選で同じ組になれないからね」

同じツアープレーヤーと言えど、今の境遇も3人とはちょっと違う。兼本は今、試合用ウェアのメーカー提供がなく、ゴルフショップで購入する。今週のシャツも、パンツも。キャディバッグにある4Wはネットで買った。スペアの1Wは他の選手に譲ってもらったものだ。

初めてのアメリカ、を侮ることなかれ。10年前のこの試合、井戸木鴻樹だって同じだった。優勝インタビューで「アメリカ、ファーストタイム」と残してメジャータイトルを日本に持ち帰ったんだ。(テキサス州フリスコ/桂川洋一)

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