社説:「倍増」の財源 国会議論から逃げるな

 今国会の焦点である防衛財源確保法案が衆院を通過し、きのう参院で審議入りした。

 衆院の審議では、防衛予算の大幅増額を税外収入などで賄う枠組みの危うさが浮き彫りになる一方、中身を吟味する議論は深まらなかった。

 岸田文雄首相は「丁寧な説明」を掲げるが、通り一遍の政府見解を繰り返すばかりで質疑がかみ合わない。もとより財源に組み込むとした防衛増税が法案に盛り込まれておらず、全体像は見えないままである。

 防衛強化を方向づけた昨年12月の安全保障関連3文書をはじめ、政府が国会議論を極力避ける姿勢が目に付く。

 4月の統一地方選前に「倍増」をアピールした子ども政策予算の財源論も6月に先送りした。

 曖昧な説明でお茶を濁し、選挙後に国民の負担増を力押しする。安倍晋三政権来の常とう手段を岸田氏も引き継ぐつもりなのか。

 将来にわたり国民の安全と暮らしを縛り、脅かしかねない重大な岐路にある。政権は説明責任を果たし、参院で徹底した議論を尽くさねばならない。

 防衛財源を巡っては、5年間で総額43兆円への増額に充てる「防衛力強化資金」のずさんさが露呈した。一度限りの国有財産の売却益や特別会計の剰余金をかき集めたが、以後の充当は「さらなる税外収入の確保に努める」(岸田氏)と見通せない。

 歳出改革による捻出も具体性を欠き、国債頼みになるのが目に見えている。

 そもそも国内総生産(GDP)の2%という「金額ありき」が否めない。身の丈を超えた増額が、軍事的なリスクと国民生活への圧迫を強めるとの懸念は深まるばかりである。

 これでは負担増に国民の理解を得られるはずがない。防衛増税を前提とする法案には野党いずれも反対しており、参院での追及で具体論を掘り下げてほしい。

 子ども予算では、政府が3月末に児童手当の拡充などを打ち出す一方、3兆円規模を想定する財源手当ては、6月の経済財政運営の指針「骨太方針」へ後回しにした。

 政府内では社会保険料の上乗せや企業拠出金、社会保障分野の歳出削減での確保を検討。当面は2年程度の「つなぎ国債」発行も調整中という。いずれにせよ国民と企業に負担増がかぶせられる。

 来月21日の会期末の間際に公表しても国会で十分な審議ができない。速やかに方針を示すべきだ。

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