子どもを性被害から守るために。性被害の実態と子どもを守るために大人がすべきこととは。

子どもを性被害から守るためには何ができるのか、もしも被害を受けてしまったらどうすれば良いのか。子どもと性被害について、広島大学ハラスメント相談室の北仲 千里准教授と、エッセイストの犬山紙子さんと共に考えます。

【性被害、性暴力と性犯罪について】

警察庁のデータを見ると、児童ポルノ事犯の検挙件数は年々増えている一方、被害児童数は横ばい傾向にあります。

児童ポルノ事犯の検挙件数と被害児童数の推移

被害児童数は横ばい傾向、といっても、性被害は統計に表れない傾向にあります。

北仲准教授によると、「警察で犯人を逮捕し、刑法で定めた「暴行」「脅迫」に当たる行為で立件されたもの、要は裁判で有罪になったものが『性犯罪』に該当します。しかし、警察が動いて、犯人が逮捕され有罪となるというのは、ものすごく一部のものになってしまっているんです。我々が普段言っている『性暴力』、『性被害』というのは、もっと広い。性的な行為だけではなく、盗撮や言葉によるものまで含まれます」

性被害や性暴力と、性犯罪の違いについて

性暴力や性被害は、「性犯罪」よりもはるかに多いのが現状。国会でも「性犯罪」に該当するものを広げようと議論されているそうです。

これについて、犬山さんも「分かっている被害件数は氷山の一角だな、と思っています。そもそも、性教育を受けていない段階の子どもが性被害を受けると、それが性被害だと分かっていないケースもあると思う。男児の場合は、言いにくいという気持ちもあるかもしれない」と話します。

【性被害に対する広島の街の声は…】

性被害に関するアンケートを実施したところ、「未成年の時に性被害をうけたことがある」と回答した人は33%。

3人に1人は性被害を受けたことがあるという結果に。

こうした子どもの性被害について、広島の街ではどのような声があるのか、若者たちに街頭インタビューを行いました。

「SNSでお金あげるから写真撮ってきてほしい、みたいなメッセージが、クラスの何人かに送られてきたということはありました」

「危険を感じたら警察に言えるように証拠を残しておいた方が良いのかな。音だけでも録音して。被害を受けたとしても(証拠があれば)警察もちゃんと行動してくれるのかなって」

と、実際に危険を感じた話や、被害を受けた場合の対応を考える意見も。

そうしたなか、証拠があったにも関わらず、真摯な対応をしてもらえなかったと話す人もいました。

「違うクラスの男子が盗撮をしていたんです。女の子のスカートの中を隠れて撮影したりして。証拠の写真を撮って先生に言って警察も来たけど、別室で話して終わりで。盗撮した本人は停学することもなく、注意されただけで終わり」

その話を横で聞いていた友人も、こう続けます。

「先生たちって問題を大きくしたがらないんですよ。”これではい、終わり”みたいな。安心して過ごせるように、ちゃんと対処してほしい」

勇気を出して相談をしたのに真摯に対応をしてもらえない、という状況が、性被害の拡大につながっているのではないでしょうか。

【SNSに起因する性被害の実態】

被害児童の被害態様別割合をみると約4割が児童自ら撮影した画像に伴うものだった(児童ポルノ事犯データより・出典:警察庁)

北仲准教授は、ネットやSNSによる性被害の深刻化についても指摘しています。

「SNSで知り合った人とだんだん親しくなって、『下着の写真送ってよ』と言われて、この人にだけならいいか、と送ってしまう。そうすると、ネット上で拡散されたり世界中でその写真を売られてしまったり。

他にも、ネットで知り合った人だけではなく、付き合っている人や友達にそうした写真を送って広められてしまったり、といったケースがあります」

SNSに起因する事犯は急増している(SNSに起因する事犯 重要犯罪等の被害児童数の推移・出典:警察庁)

SNSからの被害を防ぐには巧妙化する「グルーミング」に注意が必要

こうしたSNSに起因する性被害から子どもを守るためには、大人もその実例を知っておく必要があると犬山さんは話します。

「同じ世代の女の子になりすまして、『私、こんな悩みがあるの』と、向こうから写真を送ってきて、こちらも写真を送らざるを得ない状況を作る人もいたり。そうした実例をまず大人が知って、子どもにこういうケースがあると話せるようにしておく必要がある」

大人がこうした情報を仕入れて、学んでいく必要があります。

また、こうした性被害を受けた場合、どこに相談をすれば良いのでしょうか。

「現在、各県に『性被害ワンストップセンター』があります。警察に行くかどうしようか、という不安や、体のことや病気をうつされたんじゃないか、という相談も受けています」と、北仲准教授は話します。

【性被害ワンストップセンターひろしま」の連絡先】
無料ダイヤル:#8891
直通ダイヤル:082-298-7878

【性教育の充実が性被害から子どもたちを守る】

性被害から子どもたちを守るために、何が必要なのでしょうか。

中学校教員の鬼頭 暁史さんは、自身の辛い経験を踏まえてこう訴えます。

「包括的な性教育が必要だと思います。私自身が、15歳の時に性被害を受けていて。それまで性教育をまともに受けたことがなく、それが性被害と認識することができなかった。それが性被害だと認識できたのは約20年経ってから。何が性暴力にあたるのか、という知識が全くなかったので、学校で学ぶことができていたら…と思いました」

国際的な性教育の基準の一つ、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、身体や生殖の仕組みだけではなく、人間関係や、自分や他の人の心と身体を大切にするということも含めた包括的な性教育を提示しています。

「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では幼児期から4段階に分け学習内容を提示しています

こうした包括的性教育を日本でも充実させることが大切なのでは、と鬼頭さんは話します。

「被害にあっても被害に気付かない、そういう無知に加害者はつけこんで性暴力をする。知識がないと防ぐことも難しいし、被害にあった後も対応が難しくなる。性に対する知識や態度を子どもが学ぶためにも、まずは大人が学んで、子どもに伝えていくことが必要です」

世代を問わず、性について包括的に学び、正しい知識を身に着けることが、性被害を防ぐための第一歩になるのかもしれません。

広島ホームテレビ『ピタニュー』(2023年5月24日放送)

ライター:神原知里

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