液体水素を使用したGRカローラがいよいよS耐デビュー戦の決勝へ。途中計画的なストップも予定

 5月27日、トヨタ自動車は静岡県の富士スピードウェイで開催されるNEOSスーパー耐久シリーズ第2戦NAPAC富士SUPER TEC 24時間レースの決勝レースを前にプレスカンファレンスを開催し、今回がデビューレースとなる液体水素を使用したORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptの参戦概要を発表した。

 ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、2021年の富士24時間からスーパー耐久に参戦を開始した水素エンジン車。レーシングカーとしては世界的に見ても希有で、当初は気体水素を使用。“給水素”と呼ばれる補給作業の時間もレースを重ねるごとに短縮し、さらに車体も軽量化やパワーアップなどを果たしてきた。

 そしてさらなるブレイクスルーを目指し、2023年から導入されることになったのが、液体水素を使用したORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptだ。当初は第1戦鈴鹿で参戦予定だったが、3月8日に富士スピードウェイで行われたテストの際にエンジンルームの気体水素配管からの水素漏れによる車両火災が発生。車両復旧が間に合わず、この第2戦がデビューレースとなっていた。

 とはいえ、車両復旧に向けてはただ直すだけではなく、約2カ月間、アジャイルな開発が進められ、安全最優先の考えのもと設計変更が行われた。水素配管を高温部から離す、水素配管ジョイントに緩み防止機能と、万が一水素が漏れた際にも水素をキャッチし、検知器に導く機能を兼ね備えたセーフティーカバーを装着するといった改良が施された。

 また約2カ月間の間に、50kg以上軽量化することに成功。軽量化の結果、2021年5月に気体水素で初参戦した際のラップタイムを上回る性能を実現した。また液体水素に変更されたことで重量バランスも改善されているという。

 さらに、すでに既報のとおり液体水素に変更したことで、“給水素”のための設備もコンパクトに。岩谷産業とトヨタが共同開発した移動式液化水素ステーションから、「念願の」ピット内での充填が可能となった。また複数台連続充填も可能となっている。

 航続距離については、設計上は富士スピードウェイで言うと「満タンで20周が可能」だというが、今回のレースに向けては技術的な課題、法的な課題があり、15周で1スティントほどを計算しているという。

 また、今回観戦する側として覚えておきたいのは、今回の富士24時間でのORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、途中車体トラブルがなくとも、必ず計画的に2回ほどポンプ交換のためにストップするタイミングがあるということだ。

 液体水素の技術面での最も大きな課題がやはりポンプとのことで、このポンプ交換のために事前に練習を行っているとのことだが、交換は安全を期しながら作業を行い、一度タンク内の水素を抜くなどの作業をともなうことから、3時間半ほどを要するという。その間は走行ができないということを覚えておきたいところだ。

 また今後、水素エンジンのさらなる軽量化に向け、車載液体水素ポンプ用超電導モーター技術を京都大学/東京大学/早稲田大学と、車載液体水素用遠心ポンプ技術を早稲田大学と行っていくという。

 液体水素のレーシングカーは、もちろん世界でも初の試み。-253℃の超低温を保つ技術への課題はまだまだ多く、高橋智也GRカンパニープレジデントは、「新たに“仲間”に加わっていただいた方々がたくさんいらっしゃいます」と多くの技術に支えられているという。「そういった方々に支えられてこの挑戦ができていることに感謝したいですし、ぜひ皆さんにもご理解いただけたら」と高橋プレジデント。

 デビューレースがいきなりの24時間レースだが、液体水素のORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptがどんな戦いをみせてくれるだろうか。

© 株式会社三栄