「このしゃべり方が“センスのいい人”に見られたら」茨城とソウルのアクセントは同じ“無型”だった!

茨城弁や栃木弁が代表格で、手品師のマギー司郎さん(茨城県出身)や人気漫才コンビ・U字工事の2人(ともに栃木県出身)の話しぶりを思い浮かべると分かりやすい、この言葉の調子は、すべての単語にアクセントの決まりがない「無型アクセント」によって、もたらされている。

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この「無型アクセント」は外国語にも存在する。韓国では標準語とされるソウルの言葉が「無型アクセント」だ。常葉大学の文載皓准教授(経営学)は、アクセントのある韓国南西部・光州で育ち、大学でソウルへ進んだ。「地方出身者だとは分からないようにしゃべれたが、親に電話をしているところを後輩に聞かれ、方言を指摘されたこともある(文准教授)」

茨城アクセントが日本語の“元祖”なら自信が持てると赤プルさん

韓国では、標準語の位置づけが日本よりも厳格だ。方言で話していると、教育レベルの低い人とみられてしまうこともあるという。だから、上京してソウルに住む人は、「無型アクセント」がもたらす平坦な感じの話し方を真似して習得する。アクセントのないソウルの言葉の方が、地方の言葉に比べ、やさしい感じがするとか、都会的だと思われている。

日本に置き換えて考えると、福岡や大阪、静岡の出身の人が上京したら、茨城弁みたいな「無型アクセント」の話し方を覚えようとするというようなことだ。話す言葉が都会的かどうかは、アクセントのある、なしでは決まらない。その国の経済や文化の中心となった地域で、たまたま話されていた言葉が都会的な印象を持たれるにすぎない。

10年あまり前、芸人が次々に登場し、ネタを披露するテレビ番組で人気を博した赤プルさん。出身地の茨城弁を前面に押し出したトークで笑いをとるが、故郷の言葉にコンプレックスがあったという。

お笑い界に入る前「イベントの仕事をしていて、次は、ナレーターに進んでいこうとレッスンを始めたところ、数字のアクセントが克服できず、あなたは無理ですねと言われた。多分『七(なな)』のアクセントが共通語と違った(赤プルさん)」

韓国では、平坦にも聞こえる「無型アクセント」の言葉が標準語ですよと、赤プルさんに伝えると「茨城弁はダサいと言われてきたから、このしゃべり方が“センスのいい人”に見られたらうれしい。わざわざ共通語に変えなくてもいい。勇気が湧いた」と答えてくれた。

日本語の「無型アクセント」は、各地方でアクセントが単純な方向へ変化し、最終的になくなったものだという説のほかに、日本語の最も古い形として「無型アクセント」は元々広く話されていて、そこに大陸からアクセントのある言葉が持ち込まれ、影響を受けて、日本語は次第にアクセントを持つようになるものの、それが波及せず、現在まで残っているのが「無型アクセント」だという説もある。

「なまり」を漢字で書くと「訛り」。「言」偏に「化ける」だ。字が示す通り、言葉が時代とともに変化したものが「なまり」だとすれば、後者の説に基づく茨城県や宮崎県のアクセントは、変化をしていない最も古い形なのだから「なまり」ではない。「なまって」いるのは、むしろ、東京をはじめとするアクセントのある地域の言葉だと言えるのだ。

(SBSアナウンサー 野路毅彦)

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