横須賀の西南戦争従軍兵士48人眠る官修墓地 地元住民、先人への感謝と平和願い供養

高祖父の墓に手を合わせる大内一恭さん=横須賀市浦郷町の官修墓地

 146年前に起きた西南戦争からの帰還中に病死し、横須賀市浦郷町の官修墓地に眠る兵士48人の供養を地元住民が続けている。草刈りや清掃を欠かさず、兵士らが横須賀に葬られた経緯を記した資料を地域で回覧し、悲しい歴史を伝えてきた。今月行われた年に1度の墓前祭には約40人が参列し、故郷に帰れなかった兵士たちの思いを想像し、平和を願って手を合わせた。

 官修墓地に眠るのは、1877年の西南戦争に政府軍として従軍した兵士。警察官に採用された元士族らで、終戦後に九州から東京に戻る途中の船内でコレラ感染が拡大、同市浦郷町近くに停船し、患者は急きょ建てられた病舎に収容された。

 海岸近くにあった墓地は現在の場所に1913年に移葬されて政府に手厚く弔われていた。だが、太平洋戦争終了とともに国が維持管理をしなくなったため、墓地のある深浦町内会の住民らが掃除や除草を担うようになったという。市は75年から墓前で慰霊祭を行い、97年からは同町内会と追浜連合町内会が墓前祭を行っている。

 13日の墓前祭には地域住民のほか、遺族、墓地の管理をしている市職員、田浦署長、警視庁の職員らが参加した。

 遺族の榊原長和さん(74)=茨城県=は兄の康之さん(82)=東京都=とともに参列した。曽祖父の謙齋さん=享年(38)=は亡くなる19日前、3歳と1歳の子どもに早く帰って会いたいと手紙に記していたことを紹介した。「故郷に帰れなかった無念を思うと胸が痛む」と話す。

 父の遺品を整理した長和さんが横須賀市に問い合わせて墓地の存在を知り、2015年に初めて墓前祭に参加した。「墓地がきれいに管理されていることに感謝したい」という。

 高祖父が眠る大内一恭さん(64)=千葉県=も墓前で手を合わせた。大内さんの父が墓を探し出し、中学3年生の時に初めて墓前祭に参加した。「亡くなって146年たった今も横須賀の方々に大切にされている。葬られている48人はうれしく思っているはず」と感謝の言葉を口にした。

 官修墓地は市の「横須賀風物百選」に選ばれており、深浦町内会の今村恭啓会長(82)は子どもの頃、地域の大人たちが「先人への感謝の気持ちを忘れてはいけない」と話し、墓地を大切にしていたことが忘れられないという。「墓前祭は亡くなった方々の冥福と、平和の大切さを考える機会。地域に残る文化財として墓地を大切にしていきたい」と話している。

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