“親”が亡くなっても家の名義変更も預貯金の解約もできないことも 養子縁組をした場合としない場合のメリットとデメリットを解説

養子縁組という言葉を耳にしたことがあると思います。けれど、どんな法的効力があるのかご存知の人は少ないでしょう。どんな場合にメリットがあるのか、したほうがいいのにしていないとどんなデメリットがあるのか。ケースごとに行政書士が解説します。


「養子縁組」は血縁関係のない人同士を親子関係にする

「養子縁組」とは、血縁関係のない人同士に法律上の親子関係を発生させることをいいます。

また、養親と養子は、お互いに相手を扶養する義務を負います。昔から家業、家の苗字や財産、お墓などの維持、家が途絶えるのを防ぐために跡継ぎが欲しい時といった際に利用されてきました。

最近では、子供を授かることができない夫婦や、虐待により実の親のところへ戻ることができない幼い子を、実の親と離して養子にするケースも出てきました。

「普通養子縁組」は実親と養親に法的な親子関係が発生

養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。

「普通養子縁組」とは、養子と実の親との親子関係を維持したまま、養子が養親と養子縁組をして親子関係を生じさせることをいいます。そのため、養子には、養子縁組をした親(養親)と生みの親(実親)どちらともに法的な親子関係が発生することになります。養親と実親ともに健在だとこの4人の相続人になることになります。

普通養子縁組の主な要件は下記の通りです。

・養親と養子本人の合意があること
・養親が20歳以上であること
・養子が養親より年下であること
・未成年者を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければならないこと
(ただし自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合はこの限りではない)

実の親子関係を終了させる「特別養子縁組」

「特別養子縁組」は、普通養子縁組とは異なり、実の親との親子関係を終了させて、養親との間にのみ親子関係を生じさせる養子縁組のことをいいます。実の親との親子関係が終了するため、法律で厳格な要件が定められています。

特別養子縁組の主な要件は下記のとおりです。

・家庭裁判所の審判を経る必要があること
・養親は必ず配偶者がいること
・養親が25歳以上であること(どちらかが25歳以上ならもう一方は20歳以上で可)
・養子となる者は15歳未満であること

養子縁組をすると法定相続人が増える

養子縁組をすることで相続が発生すると何が変わるのでしょうか。

たとえば、父母+子供1人の家族の場合、父が亡くなると相続人は、母と子の2名になります。父親が遺言書を残していない場合は、この2名で父親が遺してくれた財産を分ける話し合い(遺産分割協議)をして、遺産を分けます。双方で話し合いがうまくいかず調停等になった場合に適用する「法定相続分」と呼ばれる割合は、母(配偶者)1/2、子1/2 の割合になります。

この家族に父の生前に養子が1人入っていたとすると、法定相続人が2名から3名に変わります。法定相続分は、母(配偶者)1/2、そして実子と養子は同じく子供の権利を有するので1/4ずつとなります。法定相続人が1人増えることで、法定相続分の割合が変わってくる人が出てくるのです。

また、母と子のみであれば遺産分割協議ができていたにもかかわらず、養子を入れたら遺産分割協議がうまくいかないことも考えられます。法定相続人の数が増えると、決まるものも決まらない。よくある話です。

養子縁組が節税につながる場合も

相続においては、資産家で相続税の対策を行っている方には養子縁組がメリットとなる場合もあります。

どういうことかというと、養子縁組をして法定相続人が増えた場合、相続税の計算をする際の基礎控除と呼ばれる部分の価格が上がるためです。

基礎控除は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)です。

たとえば、上記の家族のように父母+子供1人の家族で、父が亡くなると相続人は、母と子の2名になり、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×2名)=4,200万円になります。この家族に父の生前に養子が1人入っていたとすると、法定相続人が2名から3名に変わります。すると、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×3名)=4,800万円になります。

相続税がかかる資産をお持ちの方には法定相続人が増えたほうが基礎控除額が上がるという結果が出ます。

そのほかにも、相続税の計算には「法定相続人の数×○○)」という計算式が出てくるものもありますので、養子縁組が相続税対策として提案されることもあります。ただし、制限もあります。民法上は養子の数に制限はありませんが、相続税の税額計算をする際には、実子がいない場合、養子は2人まで法定相続人の数に含めることができますが、実子がいる場合は1人までしか養子を法定相続人の数に含めることができません。

節税目的で子の配偶者を養子にする場合も

資産家の家族を例にすると、両親が子の配偶者を養子に入れることがあります。そうすると両親の相続権がなかった子の配偶者も両親の相続人として権利を持ちます。のちに、子が離婚して夫婦関係がなくなったとしても、離婚と同時に自動的に養子縁組が離縁されることはなく、子の配偶者は両親の養子に入ったままになっています。これを望まない場合には、子の離婚のときに両親との養子縁組も別途離縁する必要があります。

再婚で子供がいる場合は養子縁組をしていないと相続権がない

養子縁組をしていないことで相続が発生すると何が起こるのでしょうか。

養子縁組をしていないと、たとえ親子同然の生活をしていたとしても相続人にはなれません。たとえば、お互いに元配偶者との子供がいて再婚した場合、お互いの連れ子には再婚した相手との親子関係はありません。子供が小さいうちは同じ戸籍に入っているので相続関係があるように見えるかもしれませんが、連れ子を相続権のある親子関係にするためには、新しい配偶者との養子縁組が必要です。

子供が親の介護をして葬儀、納骨を済ませた後相続手続きをしようと戸籍を集めてみると、養子縁組をしておらず、戸籍上全くの他人だったという話もあります。そうすると、亡くなった親の相続手続きが何もできなくなります。

親と住み続けてきた家の名義変更ができない。預貯金の解約もできない。手続きのできる相続人を見つけて来るしかなくなり、心身共に疲れ果ててしまうでしょう。遺された人にそんな思いをさせたいでしょうか。

養子縁組が必要かどうか考える前にやっておくこと

今もし、あなたやご両親に何かがあったとすると、(1)相続人は誰か(2)財産は何があるのか、この2つがわからないと先にはすすめません。

「(1)相続人は誰か」に関しては出生から現在までの戸籍謄本を各役所で取得し確認していかなければ戸籍上の相続人の確認ができません。この戸籍の取得は生前から取得しておくことができます。

「(2)財産は何があるのか」に関しては、相続人が知らない預貯金、不動産、保険などを探すことは非常に大変で、発見できない場合も多いです。最低限、財産として何がどこにあるのかを分かるようにしておくことをお勧めします。

そして、(1)で家族関係(2)で財産状況を確認することで、養子縁組が必要かどうかを検討することもできます。

ただし、養子縁組に関しては他人が相続人になる権利を持つことになり、相続関係や法定相続分の変動が出てくることなので、現状の相続人からの反発もあり得ます。自分で判断せず専門家の意見を取り入れながら検討していきましょう。

行政書士:藤井利江子

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