「繰り返してはならない」戦闘で5度負傷 ウクライナの元志願兵が広島で見たもの

ロシアとの戦闘で負傷したウクライナの元兵士の男性が、先日、広島市を訪れました。男性は、長野県で避難生活を送っていますが、広島で何を感じたのでしょうか?

子どもたちと一緒に空手のけいこをしている1人の男性…。ウクライナの元志願兵イゴール・ユカリチュクさんです。イゴールさんは、国内外で空手を指導するNPO法人「禅道会」のウクライナ支部長でもあります。

元ウクライナ兵士 イゴール・ユカリチュクさん
「1日から2日に一回、警報が鳴って、ミサイルが飛んできます。精神的にとても重い状況です。たくさんの人が、ふだんの生活を送りたいと感じています」

祖国での戦闘に参加していたイゴールさんは、前線で部隊長を任されていました。ただ、爆発に巻き込まれるなど、5度の負傷によって部隊を離れることを余儀なくされました。4月からは、長野県の高森町に避難し、療養を続けています。

イゴールさんは、禅道会のメンバーとともに27日、平和公園を訪れました。ロシアとの戦争が長期化するなか、被爆地ヒロシマを訪れたいと、イゴールさんが強く希望したそうです。原爆資料館では、約1時間、資料や遺品などを1つひとつ、ていねいに見て回りました。

元ウクライナ兵士 イゴール・ユカリチュクさん
「内容がとても衝撃的でした。このようなことを繰り返してはならないという思いが、より一層強くなりました」

原爆で破壊された広島の街と、ウクライナで起きている惨状を同じ「悲劇」として重ね合わせていたといいます。平和公園には、1週間前にゼレンスキー大統領も訪れています。イゴールさんの目には、どのように映ったのでしょうか。

元ウクライナ兵士 イゴール・ユカリチュクさん
「ゼレンスキー大統領自らが、広島を訪れたことは、メッセージが、世界により強く発信されたと思います。ウクライナに、より多くの支援をもらえるように、ロシアにもっと圧力をかけるようにみなさんが決めたおかげで、近いうちに戦争を終わらせるため、大きな影響があったと思っているし、それを信じたいです」

イゴールさんは、禅道会の首席師範・小沢隆 さんとの縁もあって先月、来日しました。長年、空手で培った「動じない心」は、終わりの見えない戦争でも精神的な支えになったといいます。

けがのため、万全な状態ではありませんでしたが、小沢さんも見つめる中、昇段審査に臨みました。その結果は…

禅道会 小沢隆 首席師範
「ウクライナの支援をがんばってほしい。禅道会のウクライナ支部のメンバーが明るい気持ちになってほしい。海外の支部長としては最高の6段位を授与したい」

新しい黒帯が手渡されました。

中学生たち
「(イゴールさんにとって)体だけでなく、精神面も強くなれたのかな」
「将来の夢が黒帯を取って強くなることだが、イゴールさんや小沢首席師範の話を聞いて、もっと強くなりたい」

元ウクライナ兵士 イゴール・ユカリチュクさん
「ウクライナの生徒の子どもたちのことを思い出し、気持ちが明るくなった。ウクライナに起きていること、過去には日本で起きていること、このようなことがあってはならないように…というメッセージになると信じています」

広島滞在で、戦争の悲惨さや街の復興を肌で感じたイゴールさん…。避難している長野県に29日、戻りました。

― 戦闘でけがをしたイゴールさんは、ウクライナに、負傷した兵士のためのリハビリ施設を作りたいと考えています。そのための寄付金を禅道会でも募っています。

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