地球のS-N極は反転していた 「地磁気逆転」提唱の地、玄武洞が世界地質遺産に 国内では野島断層も

「世界の地質遺産100選」の認定証を受け取る関貫久仁郎豊岡市長(右)=豊岡市中央町

 国の天然記念物・玄武洞(兵庫県豊岡市赤石)が、地球の歴史を記録する上で世界的に貴重な場所を集めた「世界の地質遺産100選」に認定された。国内から世界地質遺産に選ばれたのは、阪神・淡路大震災を引き起こした野島断層を含めて2カ所のみ。玄武洞は、大陸の移動や地震活動のメカニズムを解明するのに不可欠だった「地磁気逆転」現象が、世界で初めて提唱されたとして重要とされる。(阿部江利)

 世界地質遺産は、各国の研究機関などでつくる「国際地質科学連合」(本部・ノルウェー)が60周年を記念して選定した。専門家ら250人以上が、世界56カ国の181候補地を挙げ、特に重要な100カ所を選んだ。国外では、グランドキャニオン(米国)やエベレスト山頂の海洋岩石(中国・ネパール)、エアーズロック(オーストラリア)などが認定されている。

 玄武洞は、約160万年前の火山活動と、人の営みが作った景観。溶岩が流れ出した際、六角形などの規則正しい「柱状節理」をつくりながら冷え固まった様子が見られる。五つある洞窟のうち二つは国の天然記念物に指定されている。

 世界的価値とされるのは、京都大学の松山基範博士が1929(昭和4)年、地球のS-N極が今とは反転していた時期があったことを玄武洞の石から提唱したため。地磁気逆転が確かめられたことで、後に地球のプレートが動いていることや、地震の起こる仕組みなどが解明されていった経緯がある。

 14日には豊岡稽古堂で認定証の授与式があり、関貫久仁郎市長が同連合からの認定証を受け取った。関貫市長は「私たちの玄武洞という思いを持ち、整備やPRなどに努めていきたい」と話した。

玄武洞の一体何がすごい? 大陸移動や地震が起こる仕組み解明に貢献

 玄武洞が世界の「地質遺産100選」に選ばれたことを記念する講演会が、豊岡稽古堂であった。日本ジオパーク委員会の中田節也委員長らが、歴史や価値を解説。玄武洞を含む山陰海岸ジオパークが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界ジオパークの再認定審査で2年間の「条件付き」認定とされたことにも触れ、今後のあり方などを語った。要旨は次の通り。

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 世界の「地質遺産」は、人類が地球の仕組みを理解し、社会を発展させる上で重要だった場所が選ばれる。自然災害や気候変動などの歴史が実際に記録され、将来に人類が直面する課題にどう対応するべきかというヒントが詰まっているからだ。

 登録には、保存と歴史的価値、国際的価値の3要素が必要だ。推薦する場所を選ぶ時には、日本が地震と火山の国であることを重視した。(大陸が動くという)「プレートテクトニクス理論」をはじめ、地球の歴史を解明し、今後の災害への対応を考える上で最も貢献したのはどこかと考えた。「地磁気逆転」の玄武洞と野島断層、雲仙・普賢岳を推薦し、兵庫県の2カ所が選ばれた。野島断層は(地球の活動としては)今回登録された中では一番若い遺産で、災害の証拠が残り、活用されている点が評価された。

 山陰海岸ジオパークが世界ジオパークに再認定されたが、今回は玄武洞そばの施設での鉱物販売が問題になり、「条件付き」とされた。ユネスコが鉱物や化石の販売を止める理由は、再生できない資源であること、採掘に伴う環境破壊や労働問題、売買に伴って富の独占や戦争の誘発が起こり得ることなどだ。

 ユネスコは持続可能な開発目標(SDGs)も掲げており、加盟団体は実現に向けて、できる限りの努力をしなければならないという意味で指摘があったのだろう。

 地質遺産の認定で、玄武洞に新たなブランドが加わった。どう生かすか、訪れる人がより理解し、親しみが持てる見せ方をできるかがポイントだろう。(まとめ・阿部江利)

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