「見たことない」 那珂川の天然アユ、遡上例年にない多さ アユ釣りあす解禁

那珂川河川敷におとりアユ販売用のテントを準備するおとり店の関係者=30日夕、大田原市黒羽向町

 代表的なアユの釣り場で6月1日にアユ釣り解禁を迎える栃木県の那珂川で今季、天然アユの遡上が例年になく多いと話題になっている。釣り客、漁協は釣果や大漁を楽しみにし、釣具店、川魚店なども波及効果を期待。釣り客が伸び悩む中、県内の他河川でも遡上は多いとされ、関係者から「アユ釣りの活性化になれば」との声が上がった。

 大田原市湯津上の農業平野精一(ひらのせいいち)さん(83)は5月半ば、近くの那珂川をのぞき込み目を見張った。数え切れないほどのアユの魚影が輝いていた。「80年余り生きてきたが、こんな数は見たことがない。いつもの10倍はいると思う」

 県水産試験場による5月半ばの茂木地区定期調査で、今季は遡上アユ276匹が捕れ、昨季のほぼ9倍に上った。

 那珂川北部漁協(大田原市桧木沢)、那珂川南部漁協(那須烏山市興野)は今季、例年より若干少ない計76万匹の稚アユを放流した。北部漁協の小林孝好(こばやしたかよし)場長(33)は「遡上の多さからすれば、放流したアユはごく一部」と言う。遡上は現在も続いているという。

 試験場や両漁協などによると、遡上の多さは、温暖化などのためかアユが育つ海水温が高く、餌となるプランクトンが増えるなどプラスに働いた可能性がある。川に産み付けられた卵の生育環境など、多くの要因が重なったとみられる。

 釣り客らの期待は膨らむ。アユ釣り歴3年目の那須烏山市、50代会社員男性は、1日10匹以上釣れたことがない。キャリアを差し引いても少なめの釣果といい、「2桁が目標」と解禁を心待ちにする。

 大田原市黒羽向町の釣具店主人見守(ひとみまもる)さん(88)によると「今季はアユが多いから」と始める人もいる。毛針が昨季の倍も売れ「チャンスだから値下げして多く売る」。自らもアユ釣りを嗜み「久々に楽しみが大きい」と笑顔を浮かべた。

 友釣り用のおとりアユを扱う同市大豆田の羽田屋川魚店の山田榮子(やまだえいこ)さん(75)は「多めに仕入れて売りたい」と意気込む。

 南部漁協の岡崎孝(おかざきたかし)組合長(54)は「他の川でもアユの遡上や釣果が良いと聞いている」とした上で「これだけの遡上を釣果に結び付けてもらい、評判を口コミで伝えてもらいたい」と語り、釣り客の裾野拡大を期待した。

那珂川支流の荒川を遡上するアユ。今季は遡上がいつになく多いと言われる=11日午後

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