教え子が見た名将。千葉MF髙橋壱晟、いわきMF嵯峨理久が見た町田・黒田監督とは

J2第18節が終了し、町田ゼルビアは首位を独走している。

28年に渡って青森山田高を率いた黒田剛監督が今季町田の指揮官に就任。

J2に定着していたチームは名将の手腕により、球際を制し、走り勝つ、戦う集団へと変ぼうした。

どこか青森山田高のように激しく勝つサッカーに見えて、プロ特有の緻密さも見受けられる町田の黒田サッカーはなぜここまで強いのか。

黒田監督が初めて高校サッカー選手権を制した世代の教え子であるJ2ジェフユナイテッド市原・千葉MF髙橋壱晟と同いわきFC嵯峨理久に黒田サッカーの強さを聞いた。

青森山田で10番を背負った万能アタッカー

ジェフユナイテッド市原・千葉 MF髙橋壱晟

今季7試合に出場する髙橋は6月3日に町田ゼルビアと対戦する。常勝黒田サッカーへの考察、初対戦に向けて熱い思いを語った。(取材日:4月11日)

――黒田剛監督の町田ゼルビア就任について率直に思ったことを教えてください。

まず(監督就任を)知らなかったです。ニュースで見るまで知らなかったので、びっくりしました。

もう全く情報なかったので。

――同じディビジョンのチームに監督就任したことについて何を思いましたか。

自分を育ててくれた方と上のステージで戦えるとは思っていませんでした。

高校サッカーの名将ですし、そういう機会があるとは思っていなかったので楽しみです。

――町田の試合を観て青森山田高のサッカーとの違いの部分はありましたか?

山田のときよりは攻撃の部分でちょっと変化があったり。

ちょっと最近の試合を見ていないですけど、最初のときは(そういった)印象がありましたね(4月11日時点)。

――見た試合で気づかれた変化を教えてください。

僕が見た試合だと、サイドバックのポジショニングがちょっと違った。

高校の時はわりと形がちゃんとありました。僕の感覚とかイメージですけど、それがちょっと崩れている印象がありました。

(J2が始まって)最初のころの印象ですけどね。

――サイドバック起点の動きが違うことで、攻撃に変化が出ると思います。より得点に直結するような変化でしょうか。

そうですね。相手の守備を崩すためにちょっといじっているのかなと。

本当に印象なので実際のところは分からないですけど、そう思いましたね。

守備は僕らがやっていたときと結構似ているシーンは見受けられます。

――青森山田の6年間で感じた黒田監督の凄みを教えてください。

やはり一つの勝負やワンプレーに対するこだわり、突き詰めるところ。

特に僕は守備が印象的ですけど、負けたくないという想いがすごく強いので。

失点をしないことに対するこだわりや、細部を追求するところですかね。

これまでのどの監督よりも細かい部分を指摘されました。

――黒田監督は勝負師ですよね。高校3年間で思い出深いエピソードはありましたか。

「1本。その1本で泣くんだぞ」と、よく言われていた気がします。高校のチーム全員に。

「その1本、1mを寄せなかったらシュートを打たれて負けるんだぞ」と、「その1本を外すと負けて泣くんだぞ。その1本走らなかったことによって負けるんだぞ」と言われていました。

1本中の1本という言葉は、印象に残っています。

――第8節を終えて首位を堅持。思うことは。(4月11日時点)

まず失点2はすごいですよね。そこが一番堅い印象がやっぱりあります。

負けなければ上にいける。それこそ失点をせずに、1本中の1本を決め切って勝つとあの順位に行けるのかな。

黒田監督の言葉そのままの結果かなと思っています。

――就任された当初は懐疑論なども出ていましたね。

やっぱりすごいんだなと改めてですね。

高校サッカーでやってきた監督がプロで同じようにできるのかなと思っていた中で、やることをしっかり浸透させてやっているように見えます。

すごいと感じています。

――青森山田高OBはよく「黒田さんにはお世話になった」と言いますよね。

卒業してから7年経っているので当時のことは思い出せないです。

卒業してからの話ですけど、僕は実家が青森なので高校や中学校へ挨拶に行く機会があります。

そのときも(黒田)監督はすごく親身で、「どうだ?いまどうだ?どんな状況だ?」と、行ったときは必ず忙しくても顔を出しに来てくれます。

試合で点を取ったときは連絡を頂いています。すごく親身で、優しい人思いな監督だと思います。

久々に青森へ帰って、高校の監督、コーチのところに行くとやっぱり緊張するんですよ(笑)。

緊張するんですけど、それでも何も変わりなく優しく「そうかそうか」と、話を聞いてくださるので。

毎回緊張して行くんですけど、行って良かったなと思うんですよね。

――黒田監督は厳しいイメージが先行しがちですよね(笑)。

厳しいこともいっぱい言われたと思いますけど、それをかき消すぐらいやっぱり優しい方だなと。

多分卒業生はみんな思っているんじゃないですかね。

特に試合に出ていた選手や(トップ)チームにいた選手はみんな思っていると思います。やっぱすごいよねと。

――町田との対戦は楽しみにされていますか(4月11日時点)。

まだ僕はそこまで余裕がないですね。(試合に)出ていないですから。

楽しみですけど、そこを考えている余裕はないです。

僕は頑張らないとその舞台に立てないです。

――もし出場したら黒田監督にどう思われたいですか。

「怖いな」と思ってほしいですね。「あ、縮こまっているな」と思われたくないですね。怖い選手だと思ってほしいです。

最後のファイナルサードのところ、バイタルエリアのところ、ペナルティーエリア内で、「アイツにボールが渡ると、シュートがある」、

「ドリブルがある」、「かわされる」や、「そこで触らせないでほしい」、「そこに侵入させないでほしい」と思ってほしいですね。

そういうプレーがしたいです。

青森山田歴代屈指のランニングモンスター

いわきFC 嵯峨理久

春の訪れが近づく3月26日、いわきは町田と激闘を繰り広げ0-1で惜敗した。

それでもいわきの嵯峨は果敢に攻め込んで、チャンスを作り出した。激戦を終えた教え子は恩師との対戦やエピソードを振り返ってくれた。

(取材日:4月21日)

――先月町田と対戦しました。振り返っていかがでしたか(4月21日時点)。

チャンスは自分たちのほうがありました。

守備のところで失点をしない組織作りや、0-0など引き分けのゲームを勝ちに持っていくとか、

負け試合を引き分けに持っていくとか、そういう勝負強さを感じましたね。

――具体的にどの部分で勝負強さを感じましたか。

一番危険なところを選手たちに浸透させているところですかね。

自分たちがチャンスを作りながらも、シュートを打つところで(町田の)選手たちはちゃんと寄せ切ってきました。

しっかり人にタイトに来たところはすごく嫌でしたね。

――青森山田高との違いは感じましたか。

黒田さんはどんな形からでも得点を奪うサッカーを作り上げる方です。

そういった面でビルドアップからでも、単純なロングボールからでも、カウンターでも、もちろんセットプレー、ロングスローからもです。

全部含めてどんな形でもゴールを奪いにいく形は、変化をそこまで感じなかったです。

山田でやっていたことがすべてではないでしょうけど、どんな形でも点を奪いにいく雰囲気は変わっていませんでしたね。

――プロとアマチュアの違いはありましたか。

プロだと外国人、強力な選手が町田には前線にいたので。

やっぱりそういう選手をうまく利用しています。そういったところでは、プロと高校生という違いがあります。

チームとしてストロングの選手を中心に攻撃をしながらも、それ以外の形でも(得点を)取りにいくところは、高校サッカーでは組織的でした。

(町田は)より個ではないですけど、外国人の選手に頼っているように見せかけて組織で攻める感じですかね。

――個とチームを融合させたような戦い方ですか。

そうですね。

もちろん高校サッカーでも山田の選手たちは、個の能力が高いのかもしれないですけど、プロになってくると変わってきます。

(町田は)個と組織の融合の仕方はすごいと感じます。

――町田と対戦して分かった黒田監督の凄さはありましたか。

本当に勝つ集団を作り上げる。

最終的にどうなるか分からないですけど、蓋を開けてみたら首位(4月21日時点)。

就任されたときは周りから何か言われたのかもしれないですけど、結果で周りを黙らせる。

勝つチームの集団作りはすごいと思いましたね。

――勝てる集団を短いキャンプ期間中に作り上げたマネジメント力はすごいですね。

長年高校生を指導していた中で、プロの世界にパッと入ったときに、勝利に対して貪欲というか、勝負強いチームを作り上げる。

それは簡単にできることはないと思います。

マネジメントや選手とのコミュニケーションもそうですし、首位に導くチーム作りをしているというのはすごいとしか言えないです(笑)。

――黒田さんとの思い出深いエピソードを教えてください。

高校2年生の夏ぐらいから自分はスタメンで使ってもらっていたんですけど、

黒田監督から練習中に呼ばれて「最近なんでお前を使っているか分かるか?」と聞かれて。

そのときは自分の攻撃的な部分を評価して使ってくれているのかなと思っていたんですけど、そう答えたら「いやそうじゃない」と言われて。

そしたら「お前は攻撃の部分もそうだけど、守備の部分でチームのためにハードワークして計算できる選手だから使っているんだ」と言われました。

正直そこから自分の考え方がちょっと変わりましたね。

チームのために体を張る、頑張る、走りきる、献身性を見てくださっている指導者がいるんだと感じて。

チームのために運動量、攻守に渡ってアグレッシブに戦う献身性を大事にしようと、そのときからずっと思って、いままでやっています。

その当時の言葉があったからこそ、いまこうしてプロの選手になれました。その言葉が一番印象強いですね。いまでも大事にしています。

――そういえば高校入学前に黒田さんから熱い勧誘を受けたとか。

黒田さんから「厳しい環境に身を置いてやった後に、大きく成長している自分がいる」と言われました。

元々自分のことを確か小学5、6年のころから見てくださっていました。

中学校の選抜でも見て頂いたところもあるとは思うんですけど、すごく自分のことを評価してくださっていて。

「ウチにきて、山田の選手として戦ってほしい」と熱い言葉を頂いて。帰りの車の移動中に母と話をして(青森山田高進学を)決めたので。

それぐらい心を動かされるほど、すごく熱い話をしてもらいました。

――言葉の力がすごいですね。

なんかこう燃えたというか。

「山田に入ってやってやろう」とその時にパッと思いました。

そこで山田でやってやろうとスイッチが入りましたね。

――次対戦した際は黒田監督にどのようなプレーを見せたいですか?

黒田さんに相手の中で理久が一番嫌だったなと思わせられるようにしたいですね。結果にこだわっていきたいです。

青森山田高時代の嵯峨(左)と髙橋

名将黒田監督―。2人の教え子は率直に恩師の偉大さやJリーガーならではの視点を示してくれた。

千葉の髙橋は今月3日に町田と対戦が予定されており、出場すれば恩師との初対決に、気持ちを高ぶらせているだろう。

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既に対戦した嵯峨もリーグ後半戦でのリベンジに燃えている。今後黒田監督と教え子たちが繰り広げる激闘が楽しみで仕方がない。

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