七尾の老舗旅館「さたみや」120年の歴史に幕 ビジネスマン、鵜様道中の定宿

「さたみや」の思い出を振り返る佐田味さん夫婦=七尾市大手町

  ●3代目の佐田味さん「使命果たした」  

 七尾市中心部の大手町で120年以上の歴史を持つ旅館「さたみや」が31日で営業を終えた。七尾駅に近く、能登を回る多くのビジネスマンが定宿にしてきた。事業承継の選択肢もあったが、3代目の佐田味(さたみ)良章さん(70)は「この旅館は十分使命を果たした」と、夫婦で元気なうちに幕を下ろすことを決めた。常連客から惜しむ声が上がっており、今後は演奏会など発表の場として活用を検討する。

 さたみやは七尾市鍛冶町で開業した。創業年は定かでなく、1901(明治34)年に現在地に移転した記録が残っている。

 佐田味さんによると、3階建ての本館が完成した64(昭和39)年、七尾ではまだ珍しかったビジネスホテルとして繁盛した。気多大社(羽咋市)の国重要無形民俗文化財「鵜祭(うまつり)」で、七尾市鵜浦町で捕まえたウミウを運ぶ「鵜様(うさま)道中」では40年以上にわたり、鵜捕部(うとりべ)が最初に泊まる宿として定着していた。

 能登島大橋が架かる82年までは、フェリーの港から近いことから、七尾高などを受験する島の生徒たちが多く泊まったという。

 佐田味さんに後継者はおらず、施設の老朽化もあって営業終了を決断した。建物はまだ使えるため、事業承継を探る手もあったものの「そこまでせずとも、これで区切りにしようという気持ちになった」という。

  ●地域行事で建物活用へ

 営業は今年3月末までの予定だったが「もう一度泊まりたい」という常連客の声に応え、5月末に延期していた。「思い出が詰まった館内でコンサートを開きたい」といった要望も寄せられており、地域行事での活用を視野に入れている。

 佐田味さんは「お客さんと交わす『ありがとう』が心に響き、3代120年も続けてこられた。これからは第二の人生を楽しみたい」と感謝した。女将(おかみ)の妻文子さん(63)も「常連客との交流は財産であり、営業を終えてもお付き合いを大切にしていく」と笑顔を見せた。

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