ラピダス進出 北海道への効果 半導体先行地の熊本の現状は?

今週のテーマは「ラピダス」。2ナノメートルの次世代半導体の生産をめざす、国を挙げての一大プロジェクトだ。半導体の工場が地域にもたらす経済効果について、TSMCの進出で先行する熊本の現状とともに見ていく。

【ラピダスの千歳工場 その計画は】

パソコン、スマートフォン、自動車…さまざまな分野で必要なことから“産業のコメ”と呼ばれる、半導体。欧米・アジアの各国がしのぎを削る中、次世代半導体を国内で生産しようと立ち上がったのが、ラピダス。

千歳の美々ワールドという工業団地の65ヘクタールで造る工場は、屋上を緑化したり、再生可能エネルギーを使ったりとゼロカーボン化を目指す。このラピダスを中心に、苫小牧から千歳、札幌、石狩にかけて半導体関連の企業を集積する「北海道バレー構想」も打ち立てた。

国を挙げてのプロジェクト。研究開発から量産までの投資額は5兆円規模を見込んでいる。

【数千人規模の雇用創出も 熊本では人材確保に苦戦?】

ラピダスの工場建設地のすぐ近くに立地する公立千歳科学技術大学の宮永学長は「研究・開発に興味がある学生が増えている現状の中で最先端・世界トップレベルの企業が千歳に来るのは相乗効果が期待でき、われわれとしてはウエルカム」と話す。

札幌には北大、苫小牧には高専もあって北海道内の教育機関も大きな期待を寄せている。ただ、千歳科学技術大には半導体を専門的に学ぶ学科はなく、「これから学科見直しや半導体関連の科目を充実させたい」としている。教員を確保するところから始めるため、2年程度はかかると見込まれている。

台湾の半導体メーカーTSMCの工場ができる熊本では2024年の稼働を目指し工事が進んでいる。TSMCの工場運営のため設けられた子会社JASMは新卒と中途を合わせて700人余りを採用する予定だ。半導体関連の企業の進出も相次いでいて、その雇用も合わせれば数千人規模の求人が見込まれる。

熊本で主にUターン・Iターンの人材紹介サービスを手掛ける「パーソナル・マネジメント」。JASMへの中途人材の紹介も行っている。去年一年間の新規登録者は1600人。前年の倍に増え、TSMC効果を感じている。

ただ、経験者を確保するのは簡単ではないようだ。人事や経理などの募集もあったが、大部分を占めるのは、主にエンジニア。桝永社長は「半導体業界での経験、デバイスや装置の経験者を希望しているがなかなか近年は人気のない業界なのであまり経験者がいない。結果的に自動車や鉄鋼、その他の機械などさまざま業界の理系人材から応募があって、結果的に採用にも繋がっている」と話す。

登録者の大半は30歳前後。6割は県外からで熊本や九州に縁のある人が多い。熊本に立地する半導体関連の企業の中には、すでに好待遇の求人もあったが、TSMCの進出がUターン・Iターンを考えるきっかけになった人も多いようだ。

製造業を中心に人材派遣を手掛ける「日研トータルソーシング」。この会社では、半導体に関わる人材を自ら育成する。TSMCの進出を見据え、県内にあった研修施設をリニューアル。面積は3倍に拡張した。現場で実際に使われている機械も導入した。

研修を受けている新人たち。半導体関連の工場への派遣が決まっている。多くは現場の大部分を占める工場のオペレーターとして派遣する。そのため研修のメニューも保守・点検など実践さながらのものが中心だ。

この施設は、新人の研修はもちろん企業研修やスキルアップ、リスキリング(学び直し)に使うこともできる。日研トータルソーシングの松岡執行役員は「工場は自動化が進んでオペレーターの仕事量は減り、人材不足を補っていく。ただその分自動化をされることによって自動化された設備を維持・管理する人が絶対必要になる」と話す。

【土地の価格が1年で3倍にも!? 住宅需要が急増】

千歳には現在、市の工業団地が約10カ所あり、いろいろな業界の企業が工場を置いている。空港が近いだけに輸送面でのメリットが大きい。ただ、半導体関連の企業は決して多くはなく、ラピダスの進出を契機に関連企業も新たに拠点を置くのではないかと言われていて、数千人規模の雇用が生まれると見込まれている。

ただ、働く人が増えるということは住む場所も必要。熊本県では住宅用の土地の確保にも苦戦しているという。

熊本の「コスギ不動産」。TSMCの工場ができる菊陽町は熊本市の隣に位置することからベッドタウンとして元々人気が高いエリアだった。TSMCの進出が決まったことで、工事関係者や台湾からの駐在員、県外から進出してきた関連企業からの需要が押し寄せた。

光の森支店の田代支店長は「3年前、菊陽町の管理物件の入居率は大体93%だったが今では98%。需要と供給のバランスで供給数が今足りていないので、その分家賃が5000円から高いところだと一万円以上今までより上がっている」と話す。

この会社では、TSMC関係の住宅需要に対応すべく、プロジェクトチームを立ち上げた。菊陽町は農地が多く、開発可能な土地が少ない。このため会社では、近隣の市や町を含めて土地の確保を急いでいる。

隣町の管理土地を案内してもらった。ここには10階建て、約100戸のマンションを建設する予定だ。

プロジェクトチームの小野里さんは「この土地も取得するときは競合が何社かいて、争奪戦みたいな感じでタッチの差で購入できた」と話す。場所によっては1年前の2~3倍の価格で取引される土地もあると言い、今後も争奪戦は続きそうだ。

【周囲の関連産業は 熊本では誘致企業数が過去最多】

千歳ではラピダスの進出に合わせて周辺産業の進出も期待される。先進地熊本でもやはり、そうした現象が起きている。TSMCの工場が建つ熊本は、半導体関連の企業が多く集まっている。アメリカのシリコンバレーにならい、九州はシリコンアイランドとも呼ばれている。

TSMCの熊本工場の隣にはソニーの工場が

TSMCの熊本工場から車で5分ほどのところにある「オジックテクノロジーズ 合志工場」。メッキ加工を得意とし、半導体分野では表面処理を手掛ける。東京エレクトロンなどと取り引きしている。

加工された部品は電気自動車などで使われており、今後も成長分野と位置付けている。

ここ数年で半導体に関わるラインの新設・増設を行い、その投資額はそれぞれ数億円に上るという。金森社長は「数年間で2回投資を行うのは今まで経験がなく大変な部分はあった。それでも半導体の需要は中長期的には伸びると考え、対応すべきだと考えた」と話す。

オジックテクノロジーズのように九州では半導体関連企業が工場を増設する動きが活発だ。また、熊本県によると、県内への誘致企業は2021年度59件、2022年度61件と、2年連続で過去最多を更新した。

金森社長は、「TSMCが進出することによって周辺産業の企業も熊本や九州に進出してきている現状があり、周辺産業との新しいビジネスの創出というところも可能性としては十分にある」と九州の半導体産業全体が盛り上がることに期待していると話す。

【千歳で半導体製造40年 ミツミ電機】

ラピダスの工場の建設予定地から空港の反対側にある「千歳臨空工業団地」。半導体関連の企業がいくつかある。そのひとつが「ミツミ電機」。ミツミ電機はベアリングやモーターなどを製造するミネベアミツミ(長野)の子会社。この千歳事業所は、前身の会社から合わせると、約40年千歳で半導体の製造を続けている。

パワー半導体などを製造していて、主力はリチウムイオン電池の保護ICや残量監視IC。過充電や過放電を防ぐ保護ICは、グループ全体で世界シェア80%を占める。ウエアラブル端末も広がっており、グループの半導体部門の売り上げを2025年に1000億円(2020年は約600億円)まで伸ばすことを目指している。

北海道・千歳の優位性について矢野所長は「洗浄のために大量の水が必要なので、地下水が豊富な千歳は適地。また、北海道は涼しいので、冬の間冷房代を億単位で節約できる」と話す。ラピダス進出の影響については「一口に半導体と言っても分野が違い競合しない。ラピダスの進出によってサプライチェーンが強化されれば好影響だ。また、北海道で人材育成を強化しようという流れがある。採用もしやすくなるかもしれない」と期待を寄せる。

大きなプロジェクトだけに、その影響は多岐にわたる。今後も注目していきたい。
(2023年6月3日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)

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