温室効果ガスや生物多様性に影響するフードシステムの変革を――食のサステナビリティを考える

(左から)足立氏、佐々木氏、杉浦氏、マーカド氏

Day1 ブレイクアウト

食料の生産から消費までを体系的に包摂するフードシステムは、環境を破壊するさまざま課題をはらんでいる。しかし80億を超えた地球の人口を将来に渡って支えていくには、食料の増産は不可欠だ。本セッションでは、フードシステムの上流・中流・下流に位置する企業やシェフが、この相反する問題を同時に解決する取り組みを紹介。地球規模のフードシステムの変革について議論を交わした。(とがみ淳志)

ファシリテーター
足立直樹・サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー
パネリスト
佐々木英之・ネクストミーツ 代表取締役
杉浦仁志・ONODERA GROUP グループ エグゼクティブシェフ 執行役員/SRA-Jプロジェクト・アドバイザー・シェフ
スバーシュ マーカド・BASFジャパン 執行役員 アグロソリューション事業部長

ファシリテーターの足立直樹氏は冒頭、「世界の温室効果ガスの排出の最大3分の1、生物多様性の喪失の80%、淡水使用量の70%は、食料システムが寄与している」というグテーレス国連事務総長の言葉を引用。これは2021年秋に開催された国連食料システムサミットでの発言で、食料の生産から消費されるまでのフードシステムが抱える環境問題を端的に表している。一方でグテーレス氏は、「ただし、フードシステムはその解決になる」とも述べているという。

マーカド氏

BASFジャパンのアグロソリューション事業部は、フードシステムの「上流」に当たる農業分野で、ソリューションを開発している。同社のスバーシュ マーカド氏は、衛星画像×AI分析による最先端の栽培管理支援システム「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」を紹介。圃場の地力(土壌の生産能力)を分析し、必要な場所に適切な量の肥料を与えることで、コスト削減と収量アップ。余剰肥料による生態系撹乱抑制を実現できるという。すでにJA(全国農業協同組合連合会)とパートナーシップを結んでいる。マーカド氏は、「農業分野にAIやロボティクスを積極的に取り入れていきたい」と、自社が変革を担っていく決意を示した。

佐々木氏

ネクストミーツは、フードシステムの「中流」に位置付けられる畜産業の環境負荷を解消するために、代替肉の開発や製造販売を行っている。代替肉、すなわち代替タンパク食品には培養肉や昆虫食も含まれるが、同社の佐々木英之氏は、「過剰な畜産による地球温暖化を解決したい」という思いから、プラントベース(植物由来)の代替肉に特化したという。

普及させるための課題は数多くあるが、佐々木氏は「消費者に食べてもらう機会をどれだけ創出できるか」が重要だと考えている。そのためには、「日本の和食の技術なども取り込みながら、美味しさを追求することが肝心」であり、さらに「日本の新しい文化として世界へ発信していきたい」と抱負を述べた。

消費の場で、さまざまな取り組みを行っているのが、ONODERA GROUPのコーポレートシェフ杉浦仁志氏だ。同グループは、主にレストラン事業と給食事業を国内外で行っており、「ソーシャルフード・ガストロノミー」という独自の哲学のもと、食の未来を変えていくための啓発活動を行っている。その活動範囲は広く、医師と連携した認知症予防の食事療法研究や、食を通じた地方創生にまで至る。また、食とテクノロジーのかけあわせによる調理現場の労働環境改善にも取り組んでいる。

食のサステナビリティは今こそ取り組むべき課題

杉浦氏

ディスカッションでは、「現場の課題意識」「フードシステムの変革のためには何をすべきか」とテーマに議論を展開。マーカド氏は、「人口がこのまま増えて90億人になると、2030年までに今の107%の水が必要になる」とし、「より効率的な生産をひとり一人が行うとともに、意識も高めていかなければならない」と語った。

佐々木氏は、欧米を中心に肉食を忌避する風潮が出てきていることについて「肉食が悪いとは思っていない。日本でも地域の特産牛など多様な肉食文化がある」とし、その上で「肉食は環境負荷が高いものであるという意識を持つことは必要だ」と述べた。また「プラントベース食を増やして食料自給力を上げることが、結果的にフードシステム・トランスフォーメーションにつながる」と提言した。

杉浦氏は、世界各国の美食の世界でもサステナビリティが関心の強いテーマになっていることを紹介。その上で「日本は保守的すぎる。もう少し新しいものを取り入れていくべき」と苦言を呈した。また「企業内のスペシャリストを有効活用した共創で、ソリューションを生むことが大事になる」とさまざまな立場との連携を訴えた。

最後に足立氏が「食のサステナビリティは今こそ取り組むべき課題。そのことに気づかされた人も多いのでは。日々の仕事や生活の中でそれぞれ解決策を考えていってほしい」と参加者に呼びかけた。

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