社説:少子化対策の素案 負担隠しで本気度が見えぬ

 「待ったなしの瀬戸際にある」のではなかったか。本気で取り組もうとしているように見えない。

 政府は、「次元の異なる少子化対策」の素案を公表した。

 2024~26年度の集中対策期間で、年3兆円台半ばの追加予算を投入し、児童手当の所得制限を完全撤廃することなどを掲げた。

 だが、裏付けとなる財源については具体策を示さず、「年末までに結論を出す」と先送りした。

 岸田文雄首相は、子ども予算倍増に向けた「大枠」を今月策定する経済財政運営の指針「骨太方針」に反映させるとしてきた。しかし、予算の倍増は「30年代初頭に実現を目指す」と遠ざけた上、当面の対策に必要な財源さえ曖昧なままだ。

 衆院解散・総選挙の可能性がくすぶる中、政権の得点稼ぎに不都合な「国民の負担増隠し」とみられても仕方あるまい。

 素案では、24年度中に児童手当の所得制限を一切なくし、対象を「高校卒業まで」に拡大。第3子以降は3万円とした。

 25年度からは、育児休業給付を休業前の手取りの実質10割に引き上げることも盛り込んだ。

 それらの財源手当ては、歳出削減のほか、企業や国民が負担する「支援金制度」の新設を柱とする。28年度までに安定的な財源を確保するとするが、中身は明らかでない。

 全国民が原則加入する公的医療保険の保険料に、月500円程度を上乗せして徴収する案が検討されているようだ。ワンコインなら受け入れられやすいとの思惑が透ける。

 だが、高齢化で年々増加している社会保障の歳出削減は容易ではない。医療関連団体は「病や障害に苦しむ方々の財源を切り崩してはならない」と訴えている。

 社会保険料への上乗せも、「賃上げの流れに水を差す」と経済界や労働団体から反対論が出ている。そもそも、保険制度の目的外使用との批判もある。

 岸田氏は、防衛費倍増の財源確保では増税方針を決める一方、子ども予算では消費税をはじめ増税議論を封印している。さらなる負担増のイメージを避けたい思惑だろうが、裏付けのない「見切り発車」は無責任と言わざるを得ない。

 政府は、財源確保までの穴埋め策として、支援金制度を通じた返済を前提とする「つなぎ国債」や、教育国債の発行も検討している。結局は国債に頼り、将来へ負担の先送りにならないか。

 少子化がさらに加速する中、これらの施策が本当に効果的なのか、どれだけ必要なのか、政府は丁寧に説明する必要がある。「倍増」をアピールする金額ありきではなく、子育てを社会全体で支える持続的な仕組みが求められている。

© 株式会社京都新聞社