ターゲットイヤーファンドが老後の資産形成に向かないわけ

前回の記事では、老後資産運用に「ターゲットイヤーファンド」が向かないということに触れました。詳しい理由を書いていなかったので、それを今回、説明したいと思います。


ターゲットイヤーファンドの基本的なしくみ

まず、ターゲットイヤーファンドとは何かを説明していきましょう。

基本的な商品設計は、複数の資産クラスに分散投資する「バランス型」の投資信託です。ただ、他のバランス型ファンドと違うのは、運用期間の経過にともなって、自動的にリスク資産の比率を下げる一方、徐々に安定資産の比率を高めていくところにあります。資産運用の基本としてよく言われている、「高齢者になるほどリスク資産の比率を高めて運用するべき」を、そのまま商品化したものと考えていただければ良いでしょう。

たとえば某銀行系投資信託会社が設定・運用しているターゲットイヤーファンドの場合、「ターゲット2030」、「ターゲット2035」、「ターゲット2040」、「ターゲット2045」、「ターゲット2050」、「ターゲット2055」というように、6つのコースが用意されています。このうち、たとえば「ターゲット2055」は、西暦2055年、つまり2023年から32年後を目標年として、そこに向けて運用していくのと同時に、徐々にリスク資産の比率を下げていき、最終的には2055年になった時、運用資産の100%を安定性重視の資産に切り替えたうえで、その後10年間、運用を継続するというものです。

ちなみにターゲット2055の基本ポートフォリオは、次のようになります。

<リスク資産>

先進国株式・・・・・・51.2%

国内株式・・・・・・8.5%

新興国株式・・・・・・8.5%

先進国リート・・・・・・8.5%

新興国債券・・・・・・4.3%

国内リート・・・・・・4.3%

<安定資産>

国内債券・・・・・・6.6%

先進国債券(為替ヘッジあり)・・・・・・6.6%

先進国債券(為替ヘッジなし)・・・・・・1.5%

ターゲットイヤーファンドの根本問題

基本ポートフォリオの比率は、リスク資産が85.3%で、安定資産が14.7%という配分比率になっていますが、運用期間の経過と共に、少しずつリスク資産の比率が下がる一方、安定資産の比率が上がるような調整が行われていきます。

したがって、このファンドを保有している受益者は、何もせず、放りっぱなしにしたままで良いというのが、ターゲットイヤーファンドの建て付けになります。

では、ターゲットイヤーファンドの何が問題なのでしょうか。

それは前回の記事でも触れたように、そもそも**「高齢者だからリスク資産を持たないようにするべき」という考え方自体が間違っているのではないか**、ということです。

たとえば「ターゲット2030」の場合、今から7年後の2030年には、リスク資産の比率がゼロになり、安定資産100%で2040年まで運用が継続されます。しかし、この間に株価が上昇したとしても、同ファンドの受益者はリスク資産の比率が下がっているので、株価上昇による運用成績の向上というメリットを享受できなくなってしまいます。

それに、恐らくこの手の投資信託を購入する人は、保有している金融資産の一部を投資資金に充てるでしょう。1000万円の金融資産を持っている人が、その全額をこの投資信託の購入資金に充てるようなことは、まずしません。たとえば300万円でこの投資信託を購入し、残り700万円は預金のまま、といったケースが大半だろうと推察されます。

ただ、この場合、自分の持っている金融資産全体で考えれば、700万円を預金にしたままの時点でリスクコントロールはできています。そうであるにも関わらず、ターゲットイヤーファンドを購入した300万円の部分で、わざわざリスクコントロールをする必要性があるのかを、よく考えた方が良いでしょう。

リスクコントロールは、保有している資産全体で行うべきものであり、保有している投資信託単体で行う必要はありません。その前提に立つならば、ターゲットイヤーファンドの商品設計は、「いらぬおせっかい」ということになります。

運用の継続性は担保されるのか?

もうひとつ、重要な注意点があります。

現在、運用されているターゲットイヤーファンドの目標年で最も長期なのは、2065年です。今が2023年だとすると、42年後に目標年を迎えるわけですが、果たしてそんなに遠い未来まで、このファンドを運用し続けられる確信が、運用会社側にあるのでしょうか。

ターゲットイヤーファンドはファミリーファンド形式を採っているので、特定のコースの純資産残高が非常に少なかったとしても運用できるはずで、その点において繰上償還リスクはあまり心配しなくても良いと思われます。ですが、40年超という長い時間があると、経営不振、運用業界の統廃合など、運用の持続性に関わるさまざまな不確定要素が懸念材料として浮かび上がってきます。つまり、投資信託会社の経営体力も勘案しなければなりません。

しかし、多くの投資信託会社は未上場なので、業績、財務情報を開示しておらず、経営状況の把握が困難です。これはターゲットイヤーファンドに限った話ではないのですが、長期運用を標榜する投資信託会社の場合、各種財務情報を第三者が見られるように、情報を開示する必要があるのではないかと考えます。

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