酒蔵を改修、発酵文化伝える施設に 丹波の西山酒造場 豪雨の被災契機、女将「支援に恩返しを」 

西山酒造場の女将、西山桃子さん=丹波市市島町中竹田、西山酒造場

 丹波地域の風土や酒造りの魅力を伝えようと、西山酒造場(兵庫県丹波市市島町中竹田)が酒蔵を改修し、発酵について学び体験する施設「鼓傳(こでん)」を今秋オープンさせる。2014年の丹波豪雨による被災がきっかけ。女将(おかみ)の西山桃子さん(48)は「多くの方に助けてもらい、今も酒造りができている。この場所で培ってきた技術や文化を通し、恩返しがしたい」と話す。(伊藤颯真)

 西山酒造場は1849年創業。俳人高浜虚子が名付けた清酒「小鼓」のほか、焼酎やウイスキーなども造る。

 災害の発生は2014年8月17日未明から明け方。断続的に降り続いた大雨の影響で、市島町を中心に市内で256カ所の土砂崩れが発生し、家屋や田んぼ、線路などを埋めた。市内で死者1人、負傷者4人を数え、全半壊69棟、床上・床下浸水954棟の住家被害があった。

 同酒造場では、醸造蔵や瓶詰め工場が床上浸水。事務所や倉庫には木や泥が1メートルほどの高さまで流れ込んだ。酒米や商品は廃棄処分になり、醸造はストップした。

 雨がやみ真夏の日差しが照りつけ、土砂から異様なにおいが漂う中、同酒造場の社員や駆けつけたボランティアは、泥をかき出す作業を続けた。延べ400人以上のボランティアの助けもあり、3週間後には醸造を再開。およそ1カ月半後には店頭での販売も始めることができた。「これだけ多くの人が善意で助けてくれて本当に驚いた」と西山さん。

 「おいしいお酒を造るだけでなく、過疎が進んでいるこの地域に人を呼んで、元気な姿を見せたい」

 そんな思いを込めたのが、「小鼓」の味をつくりだす丹波の気候や、170年以上の歴史で育んできた発酵文化を伝える施設「鼓傳」だ。1896年ごろに建てられ、1990年まで使用していた木造の酒蔵を活用。2022年10月から改修を始め、今年10月ごろの開設を予定する。

 同施設は木造2階建て、約325平方メートル。スイーツショップやカフェ、ギャラリー、客室を備える。丹波の有機野菜をこうじの甘みなどで調理した同酒造場のまかない食や、酒を造る蔵人を講師にした利き酒体験などが楽しめる。

 同酒造場は、県が2025年大阪・関西万博に合わせて展開する体験型観光事業「ひょうごフィールドパビリオン」に選定されており、国内外から多くの人が訪れることを期待する。

 西山さんは「鼓は打って鳴り響く楽器。長年磨いてきた発酵技術や、自然豊かな丹波の魅力を伝えることで、地域に新たな循環を生み出すことができたらうれしい」と力を込めた。

© 株式会社神戸新聞社